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第93話
ブゥゥゥ―ン……
ブブブ……ブゥゥン……
何かを引きずり下ろすような音が辺りに響いたかと思うと――そのすぐ後に、僕でも聞き覚えのあるような音が聞こえてきた。
(これは、何か……そうだ、虫の羽音だ――でも、いったい何の虫なんだろう……それに此処は【爺や】という怪異なるモノの呪場のはず――いったい……どこからっ……)
『――なた……ひ……なた……く……んっ……いま、たすけるよ……』
『ひ……なた……ひなた……っ……』
と、大樹に捕らわれの身のままで――尚も身動きできない僕の耳に懐かしい面々の声が聞こえてくる。親友の夢月、大好きな日和叔父さん――それに尊敬する父さんの必死な様子の声が意識が朦朧としかけている僕の耳に届く。
――すると、僕は唐突にある事に気付く。
僕の大好きな人々の声は――先程、何かが引きずり下ろされるような音が聞こえてきた遥か真上から聞こえてきている。しかも、ピカッ……ピカッと尚も――真上から光が差し込んでくる事にも気付いたのだ。
【ううっ……きぎっ……こ、この……ひか……り……この……光は――儂が大嫌いな……射影機の……ものではないか……くっ……何ゆえ、何ゆえ……あの次男坊がいなくなってと……射影機が……】
――その眩しい光は、僕というよりも【爺や】を重点的狙って照らしている事にも気づいた。
僕や小鈴――それに行方不明中だった少年らよりも遥かに大きい【爺や】は射影機の光が当たる度にその体躯を捩らせて苦し気に呻く。
『光あにやはね……射影機――いや、カメラで何かを撮るのが生き甲斐だったんだよ。それに、爺や――お前が射影機を嫌っている事も知ってた。でも、爺や――お前は光あにやが――あんな身なりでも几帳面な事には気付いてなかったでしょ……日記に全部書いてあったよ。爺やに何をされていたか、射影機が苦手だって事も――それに爺や――お前が吸魂蜂が大の苦手だって事も――全部、全部書いてあったよ……さようなら、爺や――今度はお前がムシャムシャと骨の随までしゃぶられる番だよ』
ブブッ……ブブゥゥゥ―……
【ぎっ……ぎ、ぎぇぇー……っ……!!】
遥か真上から聞こえてくる親友のどこなく愉快そうな夢月の声が――慌てふためき辺りを逃げ回る【爺や】へと淡々と言い放つ。
そして、夢月の声に呼応するかのように――吸魂蜂と呼ばれた蜂の大群が無我夢中で逃げ回る【爺や】をしつこく追いかけ回し――最終的にあれ程大きかった【爺や】の体を埋め尽くしてしまうくらいに覆ってしまう。
――グシャッ……!!
と、【爺や】が吸魂蜂に襲われて虫の息となっているせいか、ようやく身動きできるようになった僕らがいる場所の遥か真上から――吸魂蜂まみれとなり既に息絶えているであろう【爺や】に向かって何かが勢いよく落とされた。
――それは、昼間に古井戸の周りにゴロ、ゴロと転がっていた少し大きめの……石、だったのだ。
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