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第96話
※ ※ ※
ドン、ドン……ピーヒャララ……
ドン、ドコドン……ドン、ドン、ドン……
ふと、目を覚ました僕に――肌寒さが襲いかかり、ハッと我にかえり慌てて辺りを見渡した。頭はボーッとしているものの、行き交う人々が様々な色の浴衣を着ていて楽しげに笑っている微笑ましい光景と――夏の夜とはいえ、夜風が冷たい。
それは、ここ――土忌野村特有のものなのかもしれないが、とにかく僕は今――夏休みで夢月に半ば強引に誘われてこの土忌野村へ遊びに来ている最中なのだった。
残念ながら――父さんからは仕事で一緒には来られないと素っ気なく言われたため、僕は夢月と二人で遊びに来ている。
でも、夢月の親戚に当たる土忌野家の人々は――みんな優しくて、とても助かった。長男で跡取りである薫さんは少し無愛想気味だけれど余所者の僕を無下に扱うような事はしないし、次男の光さんも――余所者である僕を、まるで新しい弟が出来たようだと可愛いがってくれて今日の昼間には夢月と僕と一緒に昆虫を取りに行ってくれたり、夜になった今も――神社で行われている【縁日】に連れて来てくれている。
「……日向くん……日向くん……どうしたの?具合でも――悪い?」
「えっ……う、ううん……大丈夫だよ……夢月――」
僕がボーッとしつつ寒さに身を震わせていると、隣で楽しげに笑いながら親友である夢月が話しかけてきた。夢月も――今の僕と同じように半ズボンを履いているので、夜風が当たると寒そうだ。
ドン、ドォォォン……
ドドォン……ドンッ……
「あっ……見て見て、日向くん……ほら、花火だよ……綺麗だね~」
「うん……そ、そうだよね……ひよ――い、いや……夢月……」
(ひよ――?ひよ……って……何だろう……僕は一体……何を……)
そんな僕の些細な疑問は――盛大な花火の音に掻き消されてしまう。だが、しかし――なんとなくモヤモヤとした感情が僕の心を支配する。
と、そんな時――、
ヒヤッ……
ただでさえ、夜風にさらされて寒さを感じているのに――花火を見ている僕の隙を狙って誰かが頬に冷たい物を軽く押し付けてきたのだ。
誰かが――と言ってしまったが、その答えは分かっている。
「――大成功!!やっぱり夢月のヤツと違って日向くんはからかいがいがあるな……今の反応、カメラで撮りたかったぜ」
イチゴのかき氷が入ったプラスチック容器を手にしながら、ニコニコと楽しげに笑いかけてくる光さんの姿が――そこにはあったのだった。
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