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第97話

ドォォン……ドドンッ…… 「そうだ……ねえ、光あにや様と日向くん――あのね、あっちの方に……ーーすくい……の屋台かあるのを見かけたんだ!!せっかくだし、一緒にやってみない?」 「ああ、それはいい提案だなーー夢月。花火も見飽きたし……ーーすくいをやってみるのも良いかもな……ちょうどいい、俺がとっておきの写真を撮ってやるよ」 と、夢月の提案を聞くと意気揚々とカメラを構えながらーー光さんは得意げに笑う。それに釣られるようにして、夢月も光さんへと笑い返す。そんな微笑ましい二人の様子を見てーー僕も思わず笑みが零れてしまう。 けれど、未だにーー僕の心の片隅にモヤモヤとした違和感が芽生えているのが何となく気になった。それに、先程の夢月と光さんのやり取りの中で【ーーすくい】という言葉が出てきたが一体……何と言ったのだろうか。 花火の音で掻き消され、よく聞こえなかったのだがーー金魚すくい、とは言っていなかったような気がする。それに、夢月は埋め尽くす程の赤い金魚が入っている袋を手に持っていたのに再びやりたいだなんて言うものなのかな……と少し不思議に思ったものの、夢月も光さんも――とても、とても楽しそうに……いや、それを通り越して幸せそうに微笑みかけてくれていたため僕は彼らの提案にのって屋台が並ぶ境内の方へと歩いて行くのだった。 ーー辺りに鳴り響く美しい花火の音。 ーー通行人達の幸せそうな表情。 ーー夜風に乗って僕の鼻を刺激してくる屋台の食べ物の良い香り。 学校に通うだけの退屈な日常からーー少しかけ離れた夏の醍醐味ともいえる華やかな光景と、隣を歩く大切な人々の優しさに包まれてーー僕は心があったかくなり、とてつもない幸福感を覚えていた。 ーーすると、 【ーーすくい】とやらの屋台に向かう途中で、僕は様々な屋台が立ち並ぶ中に、あるひとつの看板を見かけて――ぴたり、と足を止める。 ――そこは【射的】とデカデカと書かれている看板が立てられた屋台だった。 何故だか――僕はその【射的】の屋台が妙に気になり、まじまじと見つめてしまう。 (この射的の景品……全部、僕が喉から手が出るくらいに欲しかったけど――手に入れるのが叶わなかったモノや無くしてしまったモノだ……) 景品の中には――様々なモノがある。 ――当時大好きだったアニメのガシャポンのレアな玩具……。 ――クリスマスだかに父さんにねだったけど買ってもらえなかった高級な本……。 ――車の事故で死んじゃった母さんが欲しがっていて生前にプレゼントしようと思っていたのに売り切れたピンク色の綺麗な香水。 ――赤い着物を着ていて腰くらいまである黒髪の市松人形……。多分、相当古いのかボロボロだ。 ――父さんの弟である叔父さんにソックリなお人形……。どうやら下手くそな人の手作りなのか、ボロボロだ。 そして、そんな景品の中で……僕が最も気になったモノ――。それは、真っ白いウサギのぬいぐるみだった。

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