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第99話

青いビニールプールの水面に浮かびながら――ひら、ひらと金魚が泳ぐようにして漂っているのはビニールプールを覆い尽くさんばかりの大量の赤い紅葉だ。 確かに――ひら、ひらと浮かびながら水面を漂う紅葉の様は、泳ぐ金魚のヒレのようにも見えるし、赤いとう事を除けば人の手のようにも見える気がする。 でも、それにしても――なんとなく気味が悪い。 それは、きっとこの周りにいて虚ろな表情でビニールプールに漂う赤い紅葉をジッと見つめている正気には見えない見物人のせいだろう。よくよく見てみれば、見物人みんなが唇を小さく開けて――何事かをブツブツと呟いている。 【……い……たい……あ……た……い……あい……たい……】 【あ……える……あえ……る…………】 「……っ…………!?」 「ほら――日向くん……この網で――この淡く桃色に光っている《想い手》を――救いあげてみて?絶対に……日向くんは生きてて幸せだって思える筈だよ……ねっ、日向くん……それとも、親友である僕のお願い――聞いてくれないの?」 見物人の異様な姿と呟いている言葉の不気味さに――思わず言葉を失ってしまう僕だったが、ふいに隣で周りの見物人と同じようにジッと青いビニールプールの水面を漂い続けている《想い手》とやらの紅葉を見つめていた夢月がニッコリと笑いながら――赤い紅葉の中でひとつだけ淡く桃色に光り輝く変わった紅葉を指差しつつ――僕へ見るからに脆そうな見た目の網を差し出してくるのだった。 無二の親友である大切な夢月から、そのように言われてしまっては断る勇気が出ない僕は何となくモヤモヤとした気分になりつつも――仕方なく網を受け取ると、《想い手》とやらの変わった紅葉が大量に浮かび漂い続けている青いビニールプールの水面へと慎重にしなければすぐに破れてしまいそうな網をゆっくりと近付けていくのだった。

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