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第102話

「……ママッ……ママ――どこっ……どこなのっ……僕を……置いていかないでっ……ママ……ッ!!」 もはや、僕の頭の中は――本来ならばいない筈の【ママ】の懐かしい姿に支配されてしまっていた。相変わらず、気味の悪い笑みを浮かべたままの通行人達を押し退けつつ――楽しげに騒ぐ人々の波にもまれながら、がむしゃらに雅楽の音楽が鳴り響く夜の祭り会場を駆けて行く。既に親友である【夢月】の存在も夢月の親戚である【光】の存在さえも――今の僕の頭の中にはなかった。 「ママ……どこに……いるの!?」 あまりにも夢中で駆けてきたせいで、はあはあと息を乱しつつ――僕は地面に両膝をついてポロポロと涙を流しながら蚊の鳴くような声でポツリと呟いてしまった。 そして、何だか前方から――唐突に視線を感じると思って垂れていた頭を上げた時のことだ――。 「なっ……何で……っ…………!?」 《射的》の出店の景品としてポツンと置かれていた《誰かの手作りである白いウサギの 縫いぐるみ》が墨汁をドロリと垂らしたかのような濃厚な暗闇の中でジッと、ひたすらに僕の方を見つめていたのだ。 と、急に――白いウサギの縫いぐるみが僕に背を向けて何処かへと行ってしまう――が、 ――ポウッ…… その白いウサギの縫いぐるみが僕に背を向けて何処かへと去って行ってしまってから少しした後――まるで、僕に着いて来いといわんばかりに何処からかホタルが出現し、白いウサギの縫いぐるみが消えた方へとゆっくりと飛んで行くのだった。

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