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第104話

――チャプ…… ――チャプ、チャプッ………… 沼の波間に漂いながら、浮かぶ物――。 それは、ひとつのガシャポンのカプセルなのだけれど――何度か見てみても、中には何も入っていないように見える。僕が、それを拾おうか拾うまいか迷っていた時―――、 『むつきの――おともだち、はやく……ひろって……それを、ひろって……きっと……こうかいはしないよ?さあ――はやく……はやくしないと――かれが……きちゃう……っ……』 「……わ、分かった……っ……僕――拾うよっ……」 『は、はやくっ……むつきの……おともだち……っ……かれらが……くる……っ……!!』 と、《蛍あにや》がガシャポンのカプセルを急いで拾うように言ってくるため、焦りつつも僕は沼の右端まで駆けて行き、慌ててソレを拾おうと手を伸ばす。 ――だが、 【しあわせ、えがお――かいらく……この三つが集まれば……にんげんは――なかよくくらしていけるのに……ひなたくん、どうして……っ……どうして分かってくれないの?】 【ほんとうは、いないはずの……なくした魂を悲しむ皆の元に返せば、みーんな……しあわせ!!みーんな、笑顔になる。ひなたくんだって、ママと触れあって、それは分かっている筈でしょう――だから、ほら……そんな物なんか放っておいてさ、みんな、みーんな……幸せになろうよ――大丈夫、教祖様が……ううん、薫あにや様が……みーんなを【信幸会】の救魂の教えで正しい方に導いてくれるよ!!】 ぐいっ………… 唐突に後ろから――《蛍あにや》ではない別の――僕の親友である筈の夢月の低い声が聞こえてきたかと思うと、同じ年頃の子供とは思えない程に物凄い力で強引に彼の方に引き寄せられ、沼の淀んでいる水面に浮かぶガシャポンのカプセルを拾おうとするのを阻止されてしまう。声そのものは低いというのに、どことなく愉快げな様子で僕に語りかけてきた夢月に恐怖を覚えてしまう。 恐る恐る、振り向いた僕が目にした親友である筈の夢月の姿は――それは、それは奇妙としかいえない物だ。先程とは違い、一糸纏わぬ素っ裸の状態で顔には能面の仮面を被っている。 その仮面は若女という種類の物で、幼い頃に僕の祖父が部屋に籠っては憑りつかれてしまったかのように見惚れていたのを思い出した。今思うと――そんな祖父の奇行は【怪異なるモノ】が引き起こしたからかもしれない。 ――その若女の能面は完全に無表情という訳でもなく、かといって――げら、げらと笑っているかのような明らかな笑顔という物ではない。 ほんのり、と――笑っているように口角や目元が微妙に上がっているのが途徹もなく不気味だと思った瞬間に鳥肌がゾワゾワとたってしまった僕は、異常な状態の【夢月】から離れようと試みるのだった。

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