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第105話

と、その時―――、 僕の側にいて――体を引っ張ろうとしてくるのは【夢月】だけじゃなく大勢だという事が分かると、僕は必死で抗いながら逃れようと試みた。しかし、【爺やの呪場】で見たうね、うねと唸る波のような大勢の人々の手の動きに翻弄されてしまい――中々上手く逃れる事が出来ない。 『だめ……っ……だめだよ――ほんもののむつきのおともだちの……ひなたくん……っ……はやく――はやく……それのふたを……あけてっ………じゃないと――えいえんに……薫あにやの……呪場のなかに……とらえられたままに……っ……』 (でも……でも――このまま――何もしなければ……ずっと……大好きなママと――父さんと……夢月達と一緒にいられる……っ……父さんだって……あんなに……ぼくに……冷たくなんてしない……っ……あれ――なんか……なんか変――でも……ママの手は――あったかい……っ……) ――【幸せ】という感情の波に飲まれ、薄れゆく意識の中で《若女》という気味悪い能面を被ったママが僕の名前を優しく語りかけてきて、遂に僕は笑みを浮かべつつ、差し出してくるその手を掴もうとした。 そしてママの温かい手の余韻に浸りきり、無意識の内に能面のような笑みを浮かべていたその時―――、 シャンッ…… シャン、シャラン…… 僕の目の前に存在するオモイガ沼の中から――鈴の音が聞こえてきて――咄嗟に墨汁を垂らしたかのように真っ黒で淀んでいる沼の水面へと目線を向けてしまうのだった。 そこには、いつの間にか血のように真っ赤な着物を身につけている日本人形が仰向け状態のままプカ、プカと漂っていた――。 (あ、あれは……っ……あれは――日本人形……い、いや……シャオリンだっ……そうだ――シャオリンは行方不明になってたんだ……っ……それに――それに……夢月はともかく……既に死んでしまったママや光さんが…………いるはずがないっ……これは……いや――ここは誰かの呪場だっ……) そのオモイガ沼にプカ、プカと漂っている赤い着物の日本人形を目の当たりにしたとたんに、僕は【本物の世界での記憶】を思い出して――大好きなママの声をしているナニかの手を渾身の力で振りほどくと【蛍あにや】から言われた通り――急いでガシャポンの蓋を開けるのだった。

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