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第110話

「しょ……っ……少年達はっ……何処に……っ……何処に――いるんですかっ……んっ……あ、ああっ…………!?」 「ん…………ああ、あそこにいる――【無苦なる者ら】の事かい?安心しておくれよ……彼らは今は――まだ蛹状態のままだ。しかし、これから【御母堂様】の尊いお導きを受け――【新たなる蛍】を生み出すための儀式をする。そして、そこで蛹という状態から成長し悲しみや苦しみというものが存在する今のこの世界から解放され楽園へと飛び立つのさ……」 「は、離してっ………彼らを――このまま解放してあげてっ……」 「いいとも……ただし、君が今の体という脱け殻を捨てて――身も心も全て私の物となり、永遠に私の弟の【蛍】として寄り添い続け――支えてくれるのであれば……の話だがね。私の願いを受け入れるならば――君の亡くなった母上と共に私の【新たなる家族】として暮らしていこうじゃないか――無論、断れば――すぐに彼らを【無苦なる者ら】へと昇華させるために……今の蛹という肉体を壊す……つまり、彼らはこの苦にまみれた世界で死に至るということだ……さあ、どうする……さあ、さあ――?」 ――何の罪もなく訳も分からずに誘拐させられ、死が間近に迫っている少年らの命という尊いものを天秤にかけられていては僕は頷かずにはいられないと思ってしまった。 (ごめんなさい――ごめんなさい……っ……父さん……シャオリン……カサネ……夢月……藤司さん……それに、それに……っ……おじ……っ……) 今まで大好きな人たちと過ごしてきた日々がーー走馬灯のように頭の中で駆け巡る。これ以上、正気を失ってしまっている薫さんの顔なんて一瞬たりとも見たくなくて目を閉じたまま止めどなく涙をぽろ、ぽろと溢しながら――心の中だけで大好きだと思う人々の名前を復唱していると―――、 「私の……日向に―――汚い手で……触るなっ……今すぐに日向から離れろ……っ……」 「お……おじ……しゃん……っ……叔父さんっ……!!」 大好きな人たちの中でも、一番といっていい程に好きで好きで堪らない日和叔父さんの低い怒った声が――今、僕らがいる場所の背後から聞こえてくるのだった。

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