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第111話
※ ※ ※
正気を失っていた薫さんの狂気じみた行為を救ってくれた叔父さんに感謝した日から数日たった。あれから、薫さんは村の自警団の人に引き取られ、これから長い間__少年らを誘拐した罪を償い続けていくんだ――と夢月が切なそうに泣きじゃくりながら教えてくれた。
「ねえ、夢月…………これから、土忌野家は――どうなっちゃうの?」
「それは……分からないよ、日向くん。でも、こんな負の連鎖によって繋がれていく血族なんて__滅びた方がいいかもしれないね……日向くんだって聞いたでしょ……僕の__先祖から続いてきた忌々しい儀式のこと……っ……」
夢月いわく__土忌野家では先祖代々、女人は【邪なる者】として扱われていたそうだ。先祖代々、主人の妻が跡取りとなる子を産み落とすと__すぐに妻を手にかけ、井戸へとその亡骸を放り込んでいて死体の処理をしていたらしい。夢月は――土忌野家の親戚だというのに、今までそのような儀式をしていたとは知らなかったみたいでーーかなりショックを受けていた。
「それだけじゃなくて、薫兄や様もーー狂っていたんだ……行方不明中の少年達を君の叔父さんが救い出してからーーカモフラージュとして置いておいた人形だって気付かないくらいに……っ……日向くんーー日向くんっ……僕、すごく……悲しいっ……」
ぎゅうっ…………
「……夢月__大丈夫、大丈夫だよ……っ……僕が夢月の悲しみを……受け止めてあげるから……だから、そんなに自分を追い込んじゃ……駄目だよ……っ……」
「ありがとう……ありがとう、日向くん……!!日向くんは、あにや様たちと違って……僕と、これからもずっと一緒にいてくれるよね?」
「う、うん……だって、僕と夢月は――親友じゃないかっ……」
急にぐしゃぐしゃに泣きじゃくっている夢月から抱き締められてしまい、目を丸くしつつ驚きを露にしながらもーー僕は親戚の人々をほとんど失ってしまったせいて悲しみに包まれている彼を少しばかり遠慮がちに抱き締め返すのだった。
※ ※ ※
そして、あっという間に帰る日が来てしまった。
これ以上はーーこの土忌野村に留まる訳にはいかないため、名残惜しくも僕らはお世話になった村人達に挨拶し終えると車に乗り込もうとしたのだが―――、
「ごめんなさい……ちょっと、帰る前に寄りたい所があるんです。日向くんも一緒に行こう……っ……」
「ち、ちょっと……夢月……っ……!?」
と、半ば強引にーー夢月からある場所へと連れて来られた。
(ここ……オモイガ沼だ―――そうか、夢月は……最後に……蛍さんにお別れの挨拶に来たんだ……蛍さん……夢月の事は――僕に任せてください……っ……ありがとうございました……)
夢月と共に__僕は手を合わせて、今も暗い沼に沈んでいる蛍さんへと祈る。ふっ……と隣を見るとーー夢月も手を合わせつつ真剣な表情を浮かべて目に涙を浮かべつつ祈りを捧げていた。
「よしっ……それじゃあーーー帰ろっか……日向くんっ……!!」
「あっ……待って、待ってったら……夢月……っ……!!」
外が薄暗くなりかけていたため、僕は車の前で待っている叔父さん達に怒られないように急いで車のある方向へと駆けて行こうとしている夢月の後ろ姿を慌てて追いかけて行くのだった。
オモイガ沼にぷか、ぷかと浮かぶ……
薫さんが履いていた下駄の存在と……
ぴくりとも動かない青白い肉塊の存在に……
気付く筈もなく_____。
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