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第113話

※ ※ ※ 「あっ……日向くんっ……おはよう!!ギリギリセーフだよ……良かったね~……」 「おはよう――夢月……本当に間に合って良かったよ……そうじゃなかったら担任の鬼村のやつからガミガミ言われちゃう所だ……っ……」 と、いつもの待ち合わせ場所に何とかギリギリのタイミングで間に合ってハアハアと息を切らしている僕の姿を見つけるや否や、満面の笑みを浮かべつつ声をかけてきた夢月へと話していた時の事だった。 僕の右腕が、その直後から途端に痒くなったのは―――。 慌てて目線をその場所へと向けてみると、一匹の蚊がとまって――僕の血を吸っていた。そして、ふいに日和叔父さんが先程言っていた忠告のような言葉を思い出してしまい――バスがすぐ目の前に来ているにも関わらずピタリと足を止めて食い入るようにその蚊をジッと見つめてしまっていた。 しかし、そんな僕の手をグイッと隣にいる夢月が引き寄せると――そのまま僕はバスの中へと入っていくのだった。 ※ ※ ※ 「……なた――くん……日向くんってば……っ……」 「…………えっ……あっ……何か言った、夢月……っ……!?」 「も~……何か言った――じゃないよ……さっきから話しかけているのに……ってかさ、日向くんこそ何か有ったの……何か……さっきから変だよ?」 と、バスに乗り込んで暫くしてから夢月に不思議そうな――又は呆れたような表情を浮かべながら尋ねられたため仕方なく――日和叔父さんに蚊には気をつけろと忠告された事を話す。 しかし―――、 「え~……日向くんったら――そんな些細な事を気にしてたの?何か……日向くんの叔父さんには悪いけど……日向くんの叔父さんさ……ちょっと神経質というか……少しだけ変な人だよね?だってさ……」 ぴしっ………… 「……い、いた……っ…………」 「こんな簡単に死んじゃう蚊の……何が怖いっていうの―――ああ、ごめんね……叩いちゃって……でも、まあ……とにかくさ……日向くんは蚊に対して気にしすぎだよ……というか、蚊なんかより……鬼村の方が百倍怖い……でしょ?」 からかうように僕の腕にとまる蚊を目掛けて、ぴしゃっと手を振り下ろし叩いてきた夢月にそう言われてしまうと――確かに蚊よりも担任の鬼村にガミガミと叱られる事の方が怖いと思い直した僕はバスが学校前に着くや否や慌てて教室へと駆けて行くのだった。

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