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第114話

※ ※ ※ そして、あっという間に昼休みとなった――。 夢月が、あの時――僕の腕を半ば強引に掴みバスの中に引き寄せてくれたおかげで担任の鬼村にガミガミ怒られる事もなく無事にここまでこぎつけられたのだ。 「なあなあ、お前らさ……御身山の中にある異国風の隠れ家の噂について――知ってるか……っ……て……お前らさ――いくら幼なじみでも仲が良すぎなんじゃね!?もしかして、親友以上の関係だったりして……なあ、どうなんだよ――日向!?」 「……っ……小見山くん……っ……!?」 昼休みとなり――いつも通り、夢月と仲睦まじくおしゃべりをしていると―――急に間に入ってきてクラスメイトの小見山くんが割って入ってきた。夢月は小見山くんとは仲がいいけど、僕とは全くといっていいほど仲が良くない。 というよりも、むしろ僕が小見山くんに対して苦手意識を持っているため――今、話しを急に振られてしまい――かなり動揺しつつ目線を彼の方から逸らしてしまうのだ。 「えーっ……小見山くん――その御身山の中にある異国風の隠れ家の噂って……なに、なに!?僕、とっても知りたいっ……流石、クラスのリーダー的存在の小見山くん……何でも知ってるんだね……凄い、凄い!!」 「…………」 と、僕が必死で小見山くんからの目線に耐えていた時―――空気を読むのが得意な夢月がサラッと話題を変えてくれて、僕は心の底から安堵してしまった。ちらり、と横目で見れば――小見山くんは既に僕の事など眼中にすらないらしく、己を褒められた事に対して優越感を抱いたのか鼻高々にしつつ上目遣いで話す夢月に鼻の下をデレデレと伸ばしている。 (さすが―――クラスでも一位二位の人気を争うくらいの夢月だ……きっと――小見山くんも……夢月のことが好き……なんだろうな……それに比べ――僕は………っ……) と、二人をボケーッと見つめていると――ふいに此方の視線に気付いたのかジロリと小見山くんに見つめられた事に気付いて慌てて再び目線を逸らしてしまう。 しかし、小見山くんは――その後に何事もなかったかのように僕から目線を外すと夢月の方に向き直り――御身山の中に存在するという異国風の隠れ家の噂について説明し始めるのだった。 ―――それは、普段は存在しない筈の場所に――いつの間にか御身山の中に現れるという不思議な西洋造りの隠れ家らしい。 ―――雨の日には見れる可能性が高い、という。 (なんか……いやな予感がする……っ……) ちらっ……と横目で窓の方へと視線を向ける――。 今日の天候は雨―――しかも、かなりの降り具合だ。 「―――なあ、だからさ……今日はちょうど雨が降ってるだろ?俺と夢月と―――それと情けない日向の野郎で御身山に行って確かめてみないか?」 「……っ…………!?」 (ああ、やっぱり―――偉ぶってて目立ちたがりな小見山くんなら……そう言うと思ってたよ……) 「ご、ごめん……小見山くん……今日は――僕、用があって……っ……」 と、何とか小見山くんの提案をおそるおそる断ろうと口を開きかけた時―――、 「おーい…………今日の日直の日向――!!悪いが、このプリントを休んでる香住に渡しに行ってくれ……因みに、香住の家は御身山の中にあるからな……え~っと……確か代館区域にある筈だ……それじゃあーー頼んだぞ……あ~……痒い、痒いっ……」 「えっ…………!?」 ―――こうして、僕の急に用事を思い出した作戦という名の思惑は脆くも崩れ去り、有無を言わさずに授業が終わってから御身山へ行く羽目になっえしまうのだった。 その時―――ふと、ある事に気付いた。 小見山くんも僕に声をかけて用事を押し付けてきた担任の鬼村も―――とても痒そうに右腕の一ヶ所を擦ったり掻いたりしているという事に気付いたが、そんな些細な事は次の授業が始まるチャイムの音によって――呆気なく掻き消されてしまうのだった。

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