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第116話
「なっ…………何だよ―――急に変な声を出してんじゃねえよ……ったく、気色わりぃな……ほら、夢月が待ってるんだから……とっとと、行くぞ!?」
「う、うん…………ごめん……小見山くん。それと、タオル……ありがとう。きちんと洗ってから返すね」
「―――べ……別に……っ……」
ぐいっ……と手を引かれると――そのまま僕は、そっぽを向いてしまった小見山くんと共に夢月が待っているであろう先の方向へと歩みを進めていくのだった。
―――まだ、雨はバシャバシャと降り続いている。
※ ※ ※ ※
「もうっ…………二人共――何してたの!?せっかく僕が噂通りの隠れ家を見つけて――ずっと待ってたのに……っ……」
「ご、ごめん……夢月……ちょっと――転んじゃって…………って、ここ……もしかして……鬼村先生が言っていた……香住くんのお家なんじゃ……っ……」
夢月が痺れをきらして僕らを待っていた場所の目の前には――雨に霞む西洋館が朧気な姿で佇んでいる。こんな山奥には似つかわしくないと思う程に立派な西洋館で、まるでホラー映画に出てきそうな雰囲気を醸し出している。
「やっぱり……噂通りだったんだ……っ……これで……俺は幸せに……なれる……っ……」
ふと、何かに憑りつかれたかのようにぶつぶつと小声で呟きながら――ふら、ふらとした酔っぱらいのように覚束ない足取りで雨に霞む西洋館の門前まで向かって行った小見山くんが何の躊躇もなく―――門前についている呼び鈴を押す。
ヴィィィー……
先程から雨足が強くなり始め、既にバケツをひっくり返したかのような雨音に掻き消されそうになったものの、かろうじて、小さな呼び鈴の音が僕らの耳に届いたかと思うと―――、
ギィィィ~……
ギギィ~…………
その直後、錆び付いた不快な音を響かせつつ――黒に門扉が開いて雨に打たれ続けて寒さに身を震わせている僕らを西洋館の中へと誘うのだった。
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