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第119話

部屋へと一歩踏み入れた途端に――僕の耳を刺激してきたのは重厚なクラシック音楽だ。確か、僕の家の庭に安らかに眠っている祖父もよく聞いていた【神へ捧げる血へと】というオドロオドロしい題名の曲であり――その名とは裏腹に随分とゆったりとした曲調で下手すれば眠気を誘ってしまいそうになるくらいに穏やかな調べなのだ。 ―――と、ふいに穏やかで優雅なクラシック音楽に聞き入っていた僕だったが年季の入っていそうなレトロ調のレコードが置かれているすぐ側の焦げ茶色をした高価そうなソファーで黒い半ズボンから両足をすらりと伸ばして無防備に眠っている香住くんの姿を見つけた。先程とは違い、部屋には灯りをともしているため心地よさそうでいてスゥ、スゥと規則的に寝息をたてている。何となく目線を下半身から上へと移してみると香住くんの白いシャツがはだけかけていて雪のように美しい胸元が見えてしまう。 「……っ…………!?」 自分と同い年だというのに妙に色っぽい香住くんの姿を見て―――しかも、もう少しではだけかけている白いシャツから僅かに見えそうな彼の乳首まで見えそうだと思った所で―――、 バサッ………… 目を閉じて心地よさそうに眠っていながらも香住くんが直前まで読んでいたであろう両手に持ったままの分厚い本が―――唐突に大理石が敷き詰められている床へと落ちてしまう。 「ん……っ…………君は……日向くん……だね……ようやくウチに……来てくれたんだ……待ち続けたよ……」 「…………う、うん……あのさ……これっ……落ちたよ?」 本が落ちた拍子にパッチリと起きてしまった香住くんへと言いながらも―――僕は黒革で装丁された分厚い本を慌てて拾いあげると、それを元の持ち主である彼へと返そうとしたのだが渡そうと伸ばした腕を逆に捕まれてしまい力強く香住くんの方へと引き寄せられてしまうのだった。

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