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第127話

※ ※ ※ ※ 「おい……おい……っ……日向―――どうしたんだ……ボケーッとして……やっぱり……具合でも悪いんじゃないのか?」 「えっ…………だ、大丈夫だよ……父さん……っ……はあっ……んっ……」 と、言いながらも―――僕はかちゃ、と箸を置いてしまう。 今日の夕飯は大好きな日和叔父さんが僕のために腕によりをかけて作ってくれた―――ハンバーグだっていうのに。 ※ ※ ※ ※ あれから―――ハッと目を覚ましていた時には、既に僕は自分の部屋で仰向けになりつつ不思議そうな顔付きで見慣れた天井をボーッと見ていた。 その後、かつて僕に対して無関心だった頃とは別人のように血相を変えて慌てふためきながら父さんが部屋に入ってきて『具合は大丈夫か?』『ここが何処か分かるか?』『一緒にいた粗暴そうな少年は誰なんだ?』と一気に質問責めにあってしまったのだが―――特に具合が悪い訳でもなかったし、まさか【腐望来の池で既に絶命してた男の人が浮かんでたのを目撃した】とは堂々とは言えなかったので―――つい、父さんに言いそびれてしまったのだ。 そして、今―――本来ならば楽しい夕飯時の筈なのに、先程見てしまった男の人が池にプカプカと浮いている様が僕の頭の中でだけぐる、ぐるとまるで動かす度に模様が変わる万華鏡の如く目まぐるしく駆け巡るのだ。 いや、男の人が池に浮かんでいた光景だけじゃない。 ―――埋め尽くされる程に香住の部屋に飾られていた不気味な仮面。 ―――蓄音機から流れていた陰気なリズムのクラシック音楽。 ―――香住くん自らが太腿に突き刺したロギンの歯という異国の海を渡って日本にたどり着 いた鋭利なナイフ。 それよりも何よりも―――、 ―――香住くんの太腿から流れる石榴のように真っ赤な血を夢中で吸い続けた僕自身の姿。 (思い出す度に…………体がむずむずする……っ……) 先程、父さんからボケーッとしていると声をかけられたのは単に具合が悪くなってるからとか、既に絶命していたであろう男の人が池に浮かんでいた事を思い出したからだとか―――そんな些細な事が原因じゃないんだ。 全身に駆け巡る―――この快感じみているムズ痒さが僕をボケーッと夢見心地のようにさせていたんだ―――。 一緒に食卓を囲んでいる日和叔父さんは―――僕に対して怪訝そうな目線を向けていたけど、そんな事さえ気にならないくらいに僕は得たいの知れない快感じみた痒さの虜になっていた。 無意識のうちに―――ズボンの中で勃起してしまう程に。

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