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第138話

「こ、小見山くんの……声が……っ…………!?」 「ナヒータ……キミは……キミは―――まさか、あんな醜くて愚かな奴を心配しているの?ヤミ・マゴヤは――かつて恋人同士だった僕らを……×××神の生け贄と称していた儀式を利用して引き裂いたっていうのに……っ……それに、それだけじゃない。心友同士だったツキィムとラキムを含んだ僕ら四人の深い絆をも……生け贄の儀式を利用して―――引き裂いたんだよ」 その、どことなく悲しげな表情を浮かべながら僕を真っ直ぐに見つめてくる香住くんの夜空のように深く暗い瞳を見つめ返している内に自然にボーッとしている僕の脳裏に広がってくる光景は、またしても今の世の日本ではないような光景だった。 ―――橙色の夕日が煌めく空を周り一面に広がる海の水面が丸々と吸いとってしまったかのように宝石のトパーズ色にとても良く似ているオレンジに染まっている。 ―――宝石の如く美しい橙色の水面に浮かぶ幾つかの小舟が遠くを見つめ何らかの思いを馳せているナヒータ(僕の前世の名)の目に映る。そして、傍らには何かの楽器を弾いているツキィムと豪快にムギラの実(現世でいうココナッツによく似ている)に噛りついているラキム―――そして、ツキィムの楽器の音に合わせながら唄を口ずさむ特別な絆で結ばれたスカルミの姿がある。 『…………ナヒータ―――ヤミ・マゴヤから求婚されたんだって?支配者であるあいつからは逃れられない。でも、僕は―――ヤミ・マゴヤに愛する君を奪われたくはないよ……この―――ロギンの歯であいつの喉をかっきってやる……いつか、必ず―――絶対に……っ……』 『スカルミ…………でも、ヤミ・マゴヤは―――とても恐ろしい……っ……そんなことを話せば……君にも危害が……っ……』 じゃり……っ………… 誰にも知られていない村の秘密の場所で話していた僕ら四人に忍びよる―――魔の足音。村の前支配者である叔父を惨たらしい方法で手にかけ、支配者たる実権を奪い取ると強制的に村の長となった野蛮で傲慢なヤミ・マゴヤ。 ヤミ・マゴヤは―――嫉妬による凄まじい怒りによって完全に気が狂い、【×××神にロギンを捧げ――僕らに救いを与える】という名目で僕ら四人の魂の炎を消し去ったのだ。 それにしても、なんという因果なのだろう。 またしても、この世に五人とも(ラキムこと鬼村は亡くなってしまった)が―――再び合間見えるとは。 「ナヒータ……君は何も考えなくてもいいよ……Ψф$γ ΩнфΥΨφ(おやすみ いとしいひと)」 と、香住くんが何とか彼から離れようと身を悶えさせている僕の耳元で囁いた瞬間―――、 「……うっ…………う、うん……っ……」 唐突に視界が靄がかったかのように真っ白くなり―――やがてフェードアウトしてしまうのだった。

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