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第139話

※ ※ ※ 『……なた……くん……っ……ひ――なたくん……っ……』 ―――懐かしい声が聞こえる。 ―――どことなく慌ただしいようなその声は僕を夢の世界から現実の世界へと引き戻してくれるのだ。 「……っ……ん……っ…………!?」 「日向くん……っ……日向くん……どうしたの―――あんな……っ……あんなにどしゃ降りの雨の中で……っ……すっごく心配したんだから……日向くん一人だけで、どうしてあんな山道に倒れてたの?一緒に教室から出て行った小見山くんは……どうしたの?」 「……ツ………いや―――夢月?僕……山道で……倒れてたの……っ……?」 まったく思い出せない―――。 頭の中が―――いや、全身がなんとも言いようのないフワフワとした感覚に包まれてボーッとしているせいかもしれない。 (今が何時かは分からないけど……山道で雨に打たれ続けて倒れていたって事は……もしかしたら……っ……) 「…………ボクが大人の人を呼んで、日向くんの家まで運んできたんだよ。叔父さんに……感謝しなよ…………熱を出してうなされてた日向くんを必死で看病してくれてたんだから……っ……」 「僕ってば……熱を……出してたんだ―――そうか、だから……っ……」 ―――だから、小見山くんという少年(クラスメイト?)の姿が全然思い出せないんだ。 きっと、小見山くんという少年の姿を何度も思い出そうとしても白い靄がかかったかのように頭の中がぼやけてしまうのは―――僕が山道に倒れていて(理由は分からない)雨に打たれ続けたせいで熱を出してうなされていたからだ。 だから、僕が―――おかしくなってしまった訳じゃない。 夢月はそれを否定するかのように、怪訝そうに此方を見つめて僕に何かを言おうとしているけれど―――。

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