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第141話
「日向…………どうした―――お前の大好きなアイスだぞ?食べないのか?」
「ご……ごめんなさい……叔父さん。この熱のせいで―――ボーッとしちゃって……いただきます」
パクッ…………とアイスをすくったスプーンを口に入れた途端に異変に気付いて顔を歪めてしまった。
―――血の味がする。
それも、最初に香住くんの家を訪れた時に甘美のひとときを味わった時のような―――幸福を感じる程に強烈な甘さと鉄のような血の味とが入り交じった不思議な味覚が僕の口内に広がった。そして、やがてそれは―――完全に血の味となっていき普通であれば甘い筈のバニラアイスは僕がそれを何とか食べ終えるまで僕の口内を支配し続けていたのだ。
「日向……っ……こっちを見ろ……」
「お、叔父……さん……っ……僕、僕……やっぱり……おかしい……っ……おかしいよ……たすけ……て……叔父さんっ……」
―――そうだ。
やっぱり―――僕は、おかしい。
今、目の前で僕を心配してくれている筈の日和叔父さんの顔が黒い大きな穴で覆われていてぐにゃぐにゃと生き物のように蠢き続けて―――日和叔父さんがどんな表情を浮かべているかも見えないなんて―――。
とろけるほどに甘い筈のバニラアイスを食べた途端に血の味が僕の口内に広がって―――しかも、無意識の内にズボンの中に収まっている下半身のモノが緩くとはいえ勃起しているなんて―――。
「日向……安心しろ……日陰兄さんとお前は―――必ずオレが守ってやるから……っ……だから……」
「……っ…………!?」
その叔父さんの言葉を聞いて、僕はまたしてもメラメラと燃え続けるような途徹もないくらいに強烈な怒りを無意識の内に覚えてしまった。
「父さん……父さんって―――父さんの事は今は関係ない……っ……やっぱり―――叔父さんは……僕よりも父さんが大事なんだっ……僕の事なんて……大事だなんて思ってないんだ……」
ドンッ…………!!
と、無意識の内にメラメラと沸いてきた怒りのあまり叔父さんの体を思いっきり押し退けると、そのまま玄関へと走って行き、再び雨が降り続ける夜の闇の中―――ある場所へと勢いよく走りながら向かっていくのだった。
※ ※ ※ ※
リン、ゴーン…………
傘も持たずに突発的に出て行ったせいで服がびしょ濡れになり、濡れねずみのように佇む僕の姿を見ても―――優しい香住くんは何も問いかけずにスンナリと館の中へと入れてくれた。
館の中に一歩足を踏み入れる前に―――先程の叔父さんとのやり取りを思い出したけれど、そのせいで再びメラメラと燃えるような怒りに捕らわれてしまった僕は吹っ切るようにしてぶん、ぶんと顔を横に振ると、そのまま勢いよく館へと足を踏み入れるのだった。
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