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第142話

※ ※ ※ 「ナヒータ……ナヒータ―――起きて、やっと……やっとこの時が来たんだよ……これで古の世からの未練の糸を絶ち切って……ナヒータ―――新たな姿となった君と……いや古の世からの友だったツキィムとだって穏やかに暮らしていける……っ……ラキムは残念だったね……あんなことさえしなければ……再び僕らと穏やかに暮らしていけたのに……」 パッ…………と眩い光に包まれて顔をあげた僕の目の前に飛び込んできたのは―――今までに見た事がないくらいに極上の笑みを浮かべている香住くんの顔と、その後ろで彼を取り囲みながら同じようにニコニコと笑みを浮かべている何人かの執事さんとメイドさんの姿だった。 「か、香住……くんっ……!?」 目を開けていられない程の強烈な眩しさから逃れるために僕は慌てて体を起こそうとする。しかし、体が動かない。その理由は割とすぐに分かった。香住くんを取り囲むようにしてニコニコと笑みを浮かべている執事さんやメイドさん達が―――僕の体を力強く抑えつけているのだ。 「おっと……ナヒータ―――あまり動かない方がいいと思うな。ヤツみたいになりたくなかったら……大人しく彼らに抑え付けられたまま――崇高なる××様が降臨するのを待つことだね。ああ、この部屋がこんなにも明るいのはね……××様は光が大好きだからさ。いずれ、この光に導かれ……僕らの元に降臨して下さるはず……」 極上な笑みを崩すことなく淡々と僕に言い放つ香住くんが言うように―――この何処とも分からない部屋の壁・天井には幾つものライトが埋め込まれていて、どこを見ても―――眩い強烈な光が僕の目に飛び込んでくる。 「……ぐっ……ううっ……か、すみ…………そいつを……はなせ……っ……」 まるで、拷問部屋のようだ―――と僕がゾッとしていると、聞き覚えのある呻き声が聞こえてきて何とか目線だけでそちらを確認してみる。 すると、眩い光に包まれている異様な部屋の中央部分にある木彫りの椅子にガッチリと拘束されてしまっていて、しかも傷だらけとなっている小見山くんの痛々しい姿が飛び込んできて「ひっ」と情けない声が出てしまった。 「ナヒータ……あとはコイツを愚か者のラキムのように手にかければ……××様は僕らに永遠に幸せな日々を与えてくださるんだ。古の世で叶えラれなかった永遠に幸せな日々を与えてくださるんだよ?だから、ナヒータ……このまま僕がヤミ・マゴヤを手にかけるのを―――このまま見届けていて……。出来るよね、だって……そのためにナヒータに……僕の願いを込めた血を飲ませてあげたんだから……っ……」 ―――香住くんは硝子玉のように丸いけれど、何の感情も込もっていない目で僕の顔をまっすぐに見据えつつも右手に【ロギンの歯】と呼ばれている刃物を持ち、尚も苦し気に呻き声をあげている小見山くんの首筋へと先端を突き付けるのだった。

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