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第143話
思わずギュッと目を瞑ってしまった―――。
おそるおそる目を開けた時には―――衝撃的な光景が僕の目に飛び込んできた。てっきり、小見山くんの首筋に深く【ロギンの歯】の切っ先を突き刺していたかと思われた香住くんの行動は―――僕の予想の遥か斜め上をいっていた。
「ふ……ふふっ……ナヒータ―――崇高なる××様からの新たな御告げだ……偽りの器を自ら解放し……ナヒータ―――君とともに……崇高なる××様と同化せよとの御告げさ―――さすれば……永遠の楽園に連れて行くとの有り難き御言葉だ……ほら、ご覧……××様が僕らの前に降臨してくれた……ナヒータ、我スカルミとともに……っ……」
と、声高らかに言い放ったかと思うと―――香住くんは何の躊躇もせず手に持った【ロギンの歯】の切っ先を己の首筋へと突き刺した。とたんに、僕は意識を手放してその場へと倒れてしまう。
誰かの暖かい両腕が―――僕の倒れ行く体を支えてくれた、ような気がするのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
「がぼっ……はぁっ……こ、ここは……っ……!?」
それから、どのくらいたったか分からない―――。
ただ、ハッと目を覚まして分かったのは―――雨がザーザーと降りしきる中で白い霧に包まれて視界が悪いとはいえ見覚えのある場所にいつの間にか来ていたという事だ。
意識を取り戻した僕は―――幾度となく訪れていた【御身山】の山中にある【腐望池】の水面に浮かんで―――いや、半ば沈みかけている状況に陥っていたのだった。それに至る経緯などには覚えがなく、ただただ体が沈みそうになっていく恐怖に耐えられず両手両足をジタバタと動かしてしまう。
まるで、何かに操られてしまっているかのように―――。
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