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第144話
◆ ◆ ◆
「ひ、日向さん……日向さんっ……だ、だめです……全然目を覚ます気配がないのです……まるで―――脱け殻みたいです……っ……」
「ったく、なんだってこいつ―――こんな場所で眠りこけてやがんだよ……つーか、おい……夢月……こいつがここに来てからおかしいって本当なんだな!?」
日向が行方不明となった知らせを聞いて、父である日陰以外のメンバー(夢月・カサネ・小鈴・日和)は大雨の中―――御身山へと集った。
この土砂降りの雨であれば―――学校中の噂となっている【マヨイガ】と呼ばれる西洋館も出現するに違いないと夢月は確信していたのだ。
というより、日向の様子が日に日におかしくなっていく事に無二の親友である夢月はずっと気付いていた。しかし、さすがに子供一人でどうにかなる問題じゃないと考えた夢月は遂に行動に移した。
日向が信頼している日和叔父さんへと―――御身山に雨の日だけ出現する【マヨイガ】こと西洋館の件を話した。そして、その館を訪れた後から日向の様子がおかしくなっていった事とクラスメイトの【香住】が館に暮らしていて関わっている事も―――全て話したのだ。
◆ ◆ ◆
時は、日和や夢月達がある場所で脱け殻みたいに眠りこけてる日向を見つける事となる数時間前まで遡る―――。
西洋館は―――夢月の予想通り、御身山を四方八方に取り囲むようにして包まれている霧の中に存在していた。
ギイィッ…………
四人が中に入るなり、夢月が日向と小見山とで訪れた時とは違う光景が飛び込んできた。まるで、四人を待ち構えていた―――或いは、この先には通さないといわんばかりに何十人もの執事やメイド達が畏まった状態で立っている。
ブゥゥン、ブゥゥ……
ブゥゥ…ン……ブゥゥン……
どこかで聞いたことがあるような、ないような変な音がほぼ同時に四人の耳に届くと―――その直後、今まで開いていた扉が途端に勢いよく閉まった。
館の中に閉じ込められたと瞬間的に夢月と日和が察知した直後、今度はまるで世界がぐる、ぐると回っているかのような目眩が彼らに襲いかかってきた。そのせいで、身動きすらろくに取れない夢月と日和を心配していた小鈴だったが―――ふいに、ある事……明確に言ってしまえばどこからか聞こえてくる奇怪な音の発生源に気付いたのだ。それは、カサネも同様だったのか―――音の発生源が分かったとはいえ何かを考え込んでいる慎重派な小鈴とは違って、思い立ったらすぐ行動という単純なカサネは目眩によって倒れ込んでしまった夢月と日和を小鈴へと託すと、そのまま先を阻むようにして立っているメイドや執事達の群れへとズカズカと歩いていき何の躊躇もなく彼らのうち数人に対して蹴りを放ったのだった。
周りのメイドや執事達は―――仲間が蹴られたにも関わらず、何の反応も示さない。いや、強いて言うならば―――先ほどカサネが仲間を蹴る前から「ブゥゥ…ン……ブゥゥ……」などと各々が口で発していていた音が更に大きくなり【怒り】を露にしている。
カサネに蹴られた仲間たちは―――人という偽りの姿から解放され《本当の姿》を露にして、己らに危害を加えたカサネに向かって束となって飛び交っていく。
執事やメイド達の《本当の姿》―――それは蚊が何十体、何百体と集まり【ヒト】の姿を模倣した館に巣食う【怪異なるモノ】の手下たちなのだった。
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