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第145話

「……っ……んだよ……こいつら―――気持ちわりぃな!!オレの体に纏わりついてくんじゃねえよ……」 「カサネ先生っ……あぶない……そいつら、血を吸って先生を骨抜きにして意のままに操るつもりなんだ……っ……そいつらの正体……それは―――蚊の大群が集まった【蚊柱】がヒトの姿に擬態したこの世ならざるもの……」 カサネに蹴りを入れられ、真っ先に正体を現した執事達やメイドの本体が徐々に集まっていき巨大な柱状になり階段を阻むようにして立ち塞がる。その様は―――かつて優しく日向や夢月達に微笑みかけ歓迎してくれていた執事やメイド達のものとは思えない程に醜悪な羽音を響かせながら壁となって四人の前に立ち塞がる。 ムキになったカサネが何度も殴ったり―――蹴ったりして何とか階段の方へ進むための道を作ろうとしたものの、その度に柱に見えるくらいに大量な蚊の群れ達は床に落ちてはまた戻るという行動を繰り返す。 「くっそ……これじゃキリがねえ……っ……何とかしねえと…ってか、こんな時にシャオはどこに行ったんだよ!?おい、ヤドリギ……てめえ、こんな状態なのに何で涼しい顔をしてんだよ……このままじゃ、てめえの大事な日向ちゃんがアッチに言っちまうかもしれねえんだぞ?」 「…………」 と、動揺を隠しきれないカサネの言葉を無視して日和は飄々とした顔をしながら目の前に立ち塞がる【蚊柱】を睨み付ける。 実は、カサネは気付いていないが―――日和は僕である小鈴にある命令をしていた。それは、館の中の何処でもいいから刃物を探してきてくれ、という命令だったが、確かにカサネが言う通り―――思ったよりも小鈴が戻ってくるのが遅いのだ。そうとはいえ、誰よりも己の僕を信頼している小鈴は臆病とはいえ必ず戻ってくる、と信じていた日和は飄々とした体を装いながらもひたすら小鈴を待ち続ける。 すると―――、 炎のように真っ赤な着物を身につけている小鈴が手にギラリと光る刃物と、一体どこから見つけてきたのか沢山の薪とマッチを持って現れたのだ。小柄な小鈴にはかなり重たい筈なのに―――苦痛な顔すら浮かべずにここまで持ってきたのだ。それほど、小鈴にとって日和と日向は特別な存在だという事だ。 「だ、旦那さま~……遅くなりましたです……申し訳なかったのです……刃物はすぐに見つけたのですけど……これを探すのに手間取ってしまって~……申し訳ないのです」 「いや、ご苦労だったな―――小鈴……それじゃあ、ヤツラの始末は頼んだぞ?」 「はいっ……シャオの髪の毛……バッサリ切ってくださいなのです!!」 ジャキッ……ジャキ…… ポカンとする夢月やカサネを尻目に何の躊躇もなく腰くらいまである小鈴の髪の毛を切ってそれを手に持った日和は、そのまま勢いよく階段前に立ち塞がる【蚊柱】へと投げる。よくよく見れば、いつの間にか艶々して美しい小鈴の髪の先端が裁縫針のように鋭くなっており―――それを利用して個々の蚊を突き刺して攻撃したのだ。 すると、その途端に―――【柱のように群がる蚊】の大群は一斉に床へと落ちた。ちょうど、そこには先ほど小鈴が持ってきた薪が置かれていたため―――その瞬間、マッチに火をつけた小鈴が薪へと向かって勢いよく放り投げたため【蚊柱】は徐々に消滅してしまう。 ようやく、捕らわれの身である日向を救う為の道が切り開かれ安堵した四人は共に二階へと昇っていくのだった。

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