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第150話
【…………】
「ん……何、苦しいって……香住くんはボクのペットになったんだから―――これからも協力してくれないと困るなぁ……」
【…………】
「ん……何が目的……かって?ん~……それは今は言えないなぁ……言葉を濁して言うなら……そうだね……日向くんの困る顔が見たいから仕掛けてるってとこ……かな」
その少年―――夢月は胸ポケットから取り出した小瓶の中で狂ったかのように【新たなる仲間】となった香住だった一匹の蚊へと話しかける。
もちろん、少し離れた場所でイモリに噛まれた親友の日向に聞こえないように―――蚊のなくような声でだ。
【…………】
「えっ……日向くんにバレたら悲しむって……あはは……そんなの分かりきってるよ……だって――そのためにやってるんだから……これからも怪異なるモノを彼らに仕掛けるよ……だってボクは……そのために存在しているからね」
と、その時―――学校のチャイムの音が辺りに鳴り響く。始業の5分前になる、いつものチャイムの音だ。そのせいで、小瓶の中で飛び交う一匹の蚊の夢月に対する小さな小さな声は―――彼の耳に届く事はなかった。
「夢月―――早くしないと授業が始まっちゃうよ!!カサネ……先生うるさいんだから早くしないと……っ……」
「ごめん、ごめん……じゃあ、教室まで競争しよ?負けた方が―――勝った方の言うこと何でも聞くってのどう?」
「んもー……夢月ったら、いっつもそんな調子なんだからっ……で、でも―――僕はそんな夢月のこと……嫌いじゃないからね?」
などという、普段通りの会話をしつつ親友同士である彼らは数日前まで降りしきっていた雨が嘘みたいに晴れわたり澄んだ青空の下―――元気よく教室まで駆けて行くのだった。
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