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第154話

※ ※ ※ 「あれ……おかしいな―――もう約束の時間過ぎてるのに……って……小鈴くんの髪の毛凄く良い香りがするね……椿油だっけ?何でそれつけ始めたの?」 「そ、そんな良い香りだなんて恥ずかしいのです。ひなたさん……つけ始めたキッカケはですね……その、あの……っ……」 何だか煮え切らない様子の小鈴を見て、自然と笑みを浮かべてしまう僕―――。 いつもの赤い着物姿ではなく真っ白いワンピース姿(世界的にいえば女装ともいえる)が、とても新鮮に感じてしまう。頭につけている透き通った緑地に朝顔の花模様が描かれている―――とんぼ玉の髪飾りが日の光できらきらと煌めいて、とても綺麗だと思った。 「ん~……なに、なに……あ、分かった!!大切な人から貰ったとか……例えば……日和叔父さんとか…………」 「い、いいえ……その……旦那さまではなくて……カ、カサネさんが……っ……この香りを良いって褒めてくれたからなのであって……っ……」 普段身に付けている赤い着物に負けず劣らず頬を真っ赤に染めて落ち着かない様子で照れくさそうに視線をキョロキョロとさ迷わせながら蚊のなくような小声で小鈴は答えてくれた。 「へえ~っ……なるほど、なるほどねぇ……小鈴はカサネの事が好きなんだぁ……」 「も、もう……からかわないでくださいなのです……ひなたさん!!」 その様子を見て、ピンときた僕は好奇心が抑えきれずに未だ動揺しきっている小鈴の側に近づいて意地悪く囁きかけた。すると、僕が予想していた通り良い反応が見れたため満足していたのだけれど、その直後―――少し離れた場所から駆けよってきた夢月の方へ目線を移して驚きを隠せずに思わず「あっ」と声に出してしまった。側にいる小鈴が不思議そうに僕の方を見てきたが、そんな彼の方に目線をやる余裕さえ今の僕にはない。 夢月の側に―――面倒くさそうな表情を浮かべている小見山と転入してきたばかりの【井森くん】と【矢守くん】がいて此方へと急いで駆けよってきたからだ。 まさか、夢月が―――以前から関わりが深い訳ではないとはいえ元々クラスメートとして長い時間を共に過ごしていた小見山くんはともかくとしても、転入してきたばかりでクラスメートとして馴染みが浅い【井森くん】【矢守くん】を連れて来るとは思ってもみなかった僕は驚きとともに僅かな緊張を隠さずにいられないのだ。

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