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第155話

※ ※ ※ 突然だけれど―――僕は今、人生最大ともいえるくらいの大ピンチに陥っている。 「ほらほら~……日向くん、デート場所はこっちにあるんだから早く来なよ!!大丈夫、大丈夫……怖いと思うから余計に怖くなるんだよ」 「そ、そ、そんな事言ったって……無理、無理……怖いもんは怖いんだから!!僕―――高所恐怖症なんだって……知ってるくせに……夢月の意地悪!!ひゃ……あんまり揺らさないでよ……っ……」 情けなくも、デート場所とやらに向かうために渡るのが必要な吊り橋の上で腰を抜かせてしまって固まってしまう僕―――。 緑に包まれた自然いっぱいの周囲からは鳥の囀りが響き、ザァザァと耳に心地よい川の水が流れているせせらぎの音が聞こえて普通であれば癒ししかない状況だというのに―――この《吊り橋を渡っている最中の状況》というだけで高所が大の苦手な僕にとっては全てが台無しとなってしまっていた。 少しでも体を動かすと、ゆらゆらとまるで陽炎のように揺らめく吊り橋の脅威に、僕はただひたすら身を縮こまらせる事しか出来ない。 すると―――、 「ったく……情けない奴―――というか、おい夢月―――てめえ、こいつが高所恐怖症だって知っててわざわざ連れてきたのか?何考えてんだよ……親友同士のくせに……おい、日向……お前―――大人しくしてろよ?」 「えっ……?ち、ちょっと……こ、小見山くんっ……僕―――重たいから……っ……離して?」 「ばーか……こんな所で怯え続けるお前をほっといたら日が暮れちまうだろ……薄情なお前の友達の夢月と違って……俺は優しいんだよ……そんなんも分かんねえのか……っ……」 と、ふいに―――前方で呆れ顔を浮かべつつ僕の怯えた様子を見ているだけだった小見山くんが近づいてきて、ぶっきらぼうに僕を背中におぶさってくれたのだ。 夢月に冷たい言葉を投げかける小見山くんに驚きつつ、僕は近くにいる彼の方へと僅かながら気まずげに目線をやる。すると、夢月はいつものようにニコニコと笑みを浮かべているのが嘘みたいに歯を食い縛って何処と無く悔しそうな表情を浮かべていた―――。 「ご、ごめん……ごめん……日向くんの事、からかい過ぎちゃった……でも、どうしても日向くんにこれから行く場合の綺麗な景色を見せたくって……本当に、ごめん……っ……」 しかし、それも一瞬の出来事だった。 すぐに夢月は普段通りのニコニコ顔に戻ると、いつもの彼に戻り―――それでいて真剣な様子で僕とムスッとしている小見山くんへと謝ってきたのだ。 そんなこんなをしている内に、吊り橋を無事に渡り終えたのだけれど―――小見山くんは僕を背中から下ろそうとはしなかったため、かなり気まずい思いを抱きつつ―――それでいて、悪い気はしないためとても複雑な気分だった。 ※ ※ ※ 「ひ、ひゃっ……つ、冷たっ……!!」 「はい、これ……日向くんにお詫び―――本当に、ごめん……配慮が足りなくって……日向くんに怖い思いさせちゃって……」 ピトッと―――いきなり夢月が目的地に着くなり僕の頬に冷たい何かを当ててきたものだがら、体が飛び跳ねるくらいに驚いてしまう。 あれから、恐怖の吊り橋を渡り終えて暫くすると、夢月がどうしても連れてきたかったという【青砂川】に着いたため大小様々な石が集まりゴツゴツしている足場へと腰を降ろして少し休憩し始めた僕ら一行―――。 何でも、この【青砂川】は特定の気候条件によって川の砂が青く煌めき極上の絶景を見られるらしい。住んでいる村から近場だというのに、全然知らなかった僕は呆気にとられたけれど夢月はわざわざ川底の砂が青く煌めくための気候条件を調べてくれたらしく―――それだけで先ほどの高所恐怖症の僕に対する仕打ちなど吹き飛んでしまうくらいに嬉しい。 今、目の前で見える光景は―――言葉が出なくなるくらいに美しい。川全体がアクアマリンみたいにキラキラと輝いている光景は僕を見惚れさせるには充分だった。 そんな状態で目の前の川に見惚れてボーッとしている僕だったから、急に夢月により頬に冷たい何かが当てられて思わず変な声を出さざるを得なかったのだ。 ちゃっかりと水着に着替えている【井森くん】と【矢守くん】からも好奇な目で見られ、井森くんに至ってはクスクスと笑われてしまっているため凄まじい羞恥心に支配されてしまう。 「む、夢月……っ……僕の事からかい過ぎ……っ…て……これ……僕の大好物の瓶コーラ……わざわざ買って来てくれたの?僕―――こないだの賭けに負けたのに……しかも、こんなに……これ二十本以上あるんじゃないの?」 「ん~……まあまあ、細かい事は気にしない~……それよりさぁ……わざわざ来たんだから日向くんと小鈴くんも泳ごうよ?」 「で、でも……水着なんて持ってきてないし……」 ポンッ……と夢月はニコニコしながら思い出したように手をたたくと、背負ってるリュックから何かを取り出した。 「これ、藤司さんが用意してくれてたんだった……ボク、ドジだから日向くんたちに水着準備してって言うの忘れててさ……はい、これ……早く着替えて川で泳ごうね!!」 それは、肌にピッタリとくっつくタイプの水着で―――とても恥ずかしいと思いながらも、まさか裸で川に入る訳にはいかないと思い直し同じように照れてる小鈴と共に無言のまま水着を着終えるのだった。

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