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第157話

コツッ……と、ふいに手に何か固いものがあたる感触がした。一抹の不安と恐怖を感じて、夏も終わりに近づきかけていて暑さは和らいできたというのに、じわりと額から嫌な汗が流れる。 そして、手に当たった【固いもの】を恐る恐る拾い上げて観察してみた途端に―――足元から背中まで駆け上がってくる凄まじい恐怖心がピークに達して全身に鳥肌がたってしまう。 それは、夏の終わりかけで暑さが和らいでいるだとか、今まで水着を着ながら川で泳ぎまくっていたせいだからとか―――そういう誰でも分かるような言葉で説明出来そうな感覚ではなく、何か得たいの知れないものに襲われた時に感じてしまうような異様な【寒気さ】からくる鳥肌だった。 と、途端に背後に生理的に嫌悪感を感じるようなゾッとする不気味な気配を感じてソーッと振り返った。 先ほどから落ちているピンク色のドレスを着た人形の側に―――黒い人型の【ナニか】が立って此方へ目線を向けている。 普通の人間に存在するはずの顔―――つまり、【目】【鼻】【口】が存在していない。まるでヘドロが全身に纏わりついてあるみたいに、ただ黒い固まりのその異様な風体をしている【ナニか】は何をするでもなく、呆然とし怯えきって身動きすらとれない僕に襲いかかってくる訳でもなく―――ただ、ただ僕を穴が開いてしまうのではないかと思う程に(おそらく)此方を見つめ続けてくる。 もっとも、【ナニか】には目というものが存在していないのだから僕の気のせいなのかもしれないけれど―――。 ゴトッ………… 「あっ……い、いけない……っ……」 異様な風体の【ナニか】に気をとられているせいで―――手元が狂ってしまい土から掘り返した【固いもの】をジメジメした湿った土の上に落としてしまった。雨が降り続いてる訳でもないのに、この雑木林の中は―――何とも言えないジメジメした陰気な雰囲気に包まれている。 外界の日の光が充分に降り注がないせいなのかもしれないな、と心の中で思いながらも川で待っている夢月たちをこれ以上待たせては悪いと思い直した僕は―――雨の雫という水分をたっぷりと吸い込んでたであろう土の上に落ちてしまった【固いもの】を拾いあげた。 「こ、これって……昔の―――チョコレート缶だ……確か、少し前にテレビで見たことが……っ……うわぁっ……」 思わず―――声に出してしまっていた。 それくらい、驚いてしまったのは昔の円形型のチョコレート缶(可愛い女の子がと男の子の絵が描かれているものだ)の中を開けた途端に、三体のエンジェルを模したゴム人形(名前はチャーピーちゃんだったはず)とその周りを這い回る数匹のナメクジが絶句してる僕の目に飛び込んできたせいだったからだ。

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