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第159話
※ ※ ※
「叔父さん、日和叔父さんってば……ぐーすか寝てる場合じゃないよ!!早く行かないと父さんに怒られちゃう……ああ見えて、父さん……今夜の護家内演舞を皆に披露するためにはりきって練習してたんだから。それに、怒るのは父さんだけじゃないよ。今日の宴を取り仕切ってるのは、この村や周辺の村をいくつか纏め上げてる【市正家】の人達だし―――彼らの怖さは日和叔父さんだって知ってるでしょ?せっかくの御厚意で僕みたいな普通じゃない子供も宴に呼ばれたんだから……」
「…………日向、それ以上は言うな。私もすぐ支度する……悪かったな」
そう―――今夜、これから行われる宴は【市正家】という周辺の村きっての支配者一族である【市正家】の人達が主催する盛大なものなのだ。
僕を【普通の子供ではない】【この村から出て行け】といって追い出した―――市正家の主催する催しなど本当だったら行きたくなどないのだけれど、父さんが今年の家内安全を願うための《護家内演舞》の踊り手に選ばれてしまった以上―――赴かない訳に行かなくなった。
『おお、おお……相変わらず日陰は大人になっても美しいのう……今年は護家内演舞の踊り手に選ばれたやき、家族揃って宴に来いやんな……久々に美桜さんとの子ぉの顔も……見たいんやしなぁ……』
自分が【幽霊が見える普通じゃない子供】の僕を前に暮らしてた村から追い出し、他にも色々と酷い仕打ちを僕の身内である人にしたくせに―――笑顔で言い放ってきた【市正家の当主】が表面上では優しさを込めてニコニコと笑いながら父を護家演舞の踊り手に仕立てあげることで僕に対して【父に酷い事をされたくなければ必ず宴に来い】という脅迫ともいえる態度をされて悔しさと怒りを滲ませながら無力で普通じゃない子供の僕には何も出来ないのが凄くもどかしい。
市正家当主は―――また、かつてのように――あのおぞましい行為を僕にさせるつもりなのだ。
性を伴う目の保養という名の―――地獄のような【宴】をさせるつもりなのだ。
父さんは―――何も知らない。
だからこそ、あの鬼のような一族は―――父さんをダシにして僕を前にいた村に来るように命じたんだ。
きっと、村での立場が危うくなることなど構わないといわんばかりに僕の世話をしてくれた父さんや、今ここにいて僕の頭を優しく撫でてくれる日和叔父さん―――それに上記の件について知ってはいるけれど僕が傷付くのを気にかけてくれているのか深追いしてこない親友の夢月―――そして僕を手助けしてくれているカサネやシャオリンがいなかったら僕は孤独に打ち震えて【怪異なるモノ】たちがウヨウヨしてさ迷い続ける家から一歩も出られなかっただろう。
「日向……こっちを見ろ―――大丈夫だ、私は日向に酷い事はしない……日向は―――日向は私が守ってやる。怪異なるモノからも……怪異なるモノの如く忌まわしい人間達からも……だから、泣くな……泣くんじゃない……愛しい日向……」
「……っ……く……うっ……叔父さん……叔父さん……僕……怖い、怖いよ……っ……」
どれくらい日和叔父さんにすがり付いて泣いていたか分からない―――。
しかし、刻一刻と【宴】の時間は近付いていて決して逃れる事など出来ないと覚悟を決めた僕は未だに溢れ続ける涙をグイッと拭うと底無し沼のように纏わりつく不安を振り切るようにして日和叔父さんの唇にキスをしてニコッと微笑みかけると―――そのまま市正家に向かうために袴に着替えるのだった。
僕が行かなければ、父さんが市正家の愚かで下品な奴らから酷い仕打ちを受けるのかもしれないのだ。
女の子みたいに泣いてなんかいられない。
大切な【家族】のために戦わなくちゃ―――。
今までのメソメソしていた僕とは違うんだ、と奴らに一泡吹かせてやらなくちゃ―――。
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