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第160話

※ ※ ※ ドン、ドン……ドドン…… ピーヒャララ…… 太鼓の音と笛の音に合わせ―――父さんは【護家演舞】を舞い続ける。右手には桃の花を持ち、左手には血のように真っ赤な実が生えている茱萸(ぐみ)の枝を持ちながら巫女の衣装に着替えた父さんがこの日なために熱心に練習してきた演舞を踊る。 【護家演舞】とは、《あらゆる厄から家族が守られますように》という祈りを込めたこの村周辺に昔あら伝わる伝統的な神事だ。昔、この村に鬼が現れ―――村人達を食い散らかし災いを撒き散らししていった。これはいけない、と危惧した村の一人の青年が【大事な家族が暮らしている住みかを鬼によって踏み荒らされるのは堪らん】と行動に移し、鬼を油断させるために巫女の姿に女装し尚且つ鬼が苦手とする《桃の花》と《茱萸の枝》を持ち勇敢にも退治しに行った。見事、鬼を退治した青年は村人達と喜びのあまり演舞を踊った。 それが―――【護家演舞】の由来である。 《ずっと家族皆が喜びのあまり演舞を舞うくらいに笑顔で幸せに暮らしていけますように》 ―――。 それは、僕も―――今、演舞会場となっている市正神社に集う皆も同じように願い続けているのだろう。時代など関係なく、受け継がれているに違いないのだ。 ※ ※ ※ 「日向くんのお父さん……とっても綺麗だね~」 「それ、父さんに言ってみなよ……夢月―――絶対に怒られるから。父さん、綺麗とか可愛いって言われるの大嫌いなんだよ……でも、まあ……僕もそう思うかな……面と向かっては言えないけど」 と、舞いを踊り続ける巫女姿の父さんにポーッと見惚れつつも夢月と会話している僕の目に―――ふっ、とある人物の姿が目に入ってきた。 ジトーッと蛇のように鋭い目付きで舞い続ける父さんを睨み付ける人物―――。 それは、訳あって幼い頃に【市正家】の連中によって引き離されて別の村で暮らしている―――弟の光太郎だった。隣には、光太郎の幼馴染みである翔くんと美智瑠くんがいる。 「……っ……夢月―――ちょっと、ごめん……っ……」 と、夢月には申し訳ないと思いながらも―――自然と体が動いていた。ずっとずっと、実の弟である光太郎と会いたいと思っていたのだ。 光太郎には自分が生きているせいで申し訳ない事をした―――と、ずっと心に引っかかっていたから。 【お前の兄ちゃんは霊が見える病人だ】 【お前にも霊が見えるんだろ……気持ち悪い】 【お前と日向が一緒にいれば―――余計に苛められるやき……いいから市正家の言うとおり離れて暮らしや……日向には日陰がおるやき……大丈夫やろ】 全部、全部―――僕の存在のせいで光太郎が周りの人々から言い放たれた言葉だ。 とにかく、手紙では伝えきれない懺悔の気持ちを大好きな光太郎に直接伝えたくて―――僕は人混みを押し退けながら弟の元へと駆けて行く。

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