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第161話

「こ、光太郎……っ……光太郎……待って、待ってよ……僕、ずっと光太郎と話しがしたくて……っ……」 「…………」 パシッ………… ようやく、ずっと本心から弟である光太郎に謝りたいと―――もう一度、離ればなれになる前みたいに仲良くしたいと思っていた僕の願いは光太郎が無言のまま目も合わせようともしないという行動によって無惨にも砕かれてしまった。しかも、それだけでなく「話しかけるな」といわんばかりに浴衣の裾を掴んだ手をたたかれ降りほどかれてしまった。 「こ、光ちゃん……いくらなんでも―――酷くないか?血の繋がった……日向兄に対して……っ……」 「…………」 気まずさを感じたのか、光太郎の隣にいて林檎飴を頬ばっていた翔くんが慌てて僕らを仲裁するように光太郎へと声をかける。しかし、親友の翔の言葉にさえ無言のままの弟の様子を見て―――『何十年の月日の間に出来てしまった不仲という溝』は中々埋められないと察知した僕は涙ぐみそうになるのを必死で堪えつつ精一杯の笑みを浮かべながら久々に会った弟の浴衣の裾から手を離した。 まるで、後ろ髪を引かれるような思いだったが―――おそらく、ここで僕が未練がましく光太郎へと話しかけても今の彼には僕の心は届かないのだろう。 「ごめん、光太郎……こんなお兄ちゃんに話しかけられても―――迷惑なだけだよね。でも、僕は離れてても……ずっと光太郎の事を大事に思ってるから……それだけ、覚えててくれるかな?」 「…………」 相変わらず無言のままの光太郎―――。 翔くんや美智瑠くんにも遠慮がちに会釈してから、その場を離れようと彼らから背を向けた時―――急に背後からグイッと手を引かれた。慌てて振り返ってみると、相変わらず目を合わせようともしない光太郎が僕の手に何かを握らせた。そして、彼らは夜闇の に溶け込むようにしてその場から立ち去っていったのだ。 それは、この市正神社で縁結びの効力がある神具として売られている【護家破魔矢】だった。 何故、弟である光太郎がぶっきらぼうな態度でこんな物を握らせたのかは分からないけれど、それでも―――悪い気はしなかった。 光太郎とのギスギスした関係にはヒビが入ったままだけども多少は軽い足取りで演舞会場で舞い終わった父さんに激励の言葉をかけに行こうと歩み始めた時―――、 「なんや、妙に―――嬉しそうやなぁ……村八分にされた家の厄介者の日向ちゃん。さっきの光太郎とのやり取り聞いてたんやが……まさか、たかがあんな事で……自分が普通だなんて勘違いしてる訳じゃないやきな?昔からお前が背後に霊がいると言われた奴は死んじまったり……精神を壊したりする……てめえが俺の母を殺したんやったな。この疫病神め……こっちに来いや…っ……」 「……っ……や、やだ……やだ……父さん……叔父さん……っ……」 グイッ……と今度はいきなり現れた市正家の次男坊の【市正 鬼助】に無理やり腕を捕まれて人気のない林の中へと連れて来られた僕は凄まじい怒りに支配され正気を失っているといっても過言ではないくらいに此方を睨み付けてる市正の次男坊から葉っぱまみれの土の上へと押し倒されてしまうのだった。

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