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第162話
※ ※ ※
「な、何で……今更、こんなこと……っ……僕らはあなた達の言うとおり―――この村から離れて別の村で暮らしてる……っ……あなた達の言うとおり、光太郎とだって……離ればなれになった……それだけではダメなんですか!?何で、あなた達は自分から僕らを村から追い出したのに……今更になって―――父さんを利用してまで僕を苦しめようとするんですか?」
強引にはだけられた服の隙間から入ってくる【市正家の次男坊】の手が―――僕の無防備に晒されてしまった素肌を撫で回す。まるで、意思を持った生き物のように這い回りながら次男坊の指によって肌を刺激される感触は―――粘液はないもののナメクジに肌を這い回られるのと、とてもよく似ていると思ってしまい余りの気色悪さから体の律動が止まない。
「はん、そう言って泣きじゃくりながらも―――体は喜んでるんやろ?さっきからビクビク震えてるやき……でも、まあ……誤解すんじゃねえ。俺はてめえみたいな疫病神に手出しするつもりなんかないんや……てめえに罪滅ぼしの機会を与えてやるんやき……感謝しぃや?」
「つ、罪滅ぼし……っ……!?」
「そうや。俺の母や……その他、いけ好かないとはいえ親族だった輩―――そいつらの未練を晴らしてやりたいんやさ。てめえが、霊が見えると言ったせいで無念を抱きながら死んでいった奴らの魂を晴らしてやりたいんやき……じわじわと追い詰めて……生まれてきた事を後悔させてやるやんな」
バサッ……バサ、バサッ…………
僕の肌をナメクジみたいな指で刺激するのをピタリ、と止めた【市正 鬼助】は僕の体からスッと離れると―――側に佇む彼のお付きの者から何かを受け取り、そして有ろう事かそれを僕の体へと放り投げてきたのだ。
(こ、これ……さっきの……巫女姿の父さんが踊ってる写真……ど、どうして……市正の次男坊が―――こんなのを……っ……)
急に地面に這いつくばったまま身動きすら録にとれない僕に向かって【巫女姿で演舞を舞う父さんの写真】がニヤニヤと口元を歪めて笑いつつ法悦に浸る鬼助によって放り投げられた事に対して訳が分からず混乱してしまう僕だったけれど―――得体の知れない不安がモヤモヤと僕の胸に意思とは関係なしに溢れてくる。
「よう撮れてるやんな……それはさておき、世間知らずの疫病神のてめえに教えてやる……世の中にはな……男の女装姿でセックスしたいとか……女装姿がそそる、とかっていう変態野郎がごまんといるんや……てめえの父親みてえに見目麗しいなら……尚更やんな。俺が言いたい事―――分かるやろ?」
「も……もしかして……もしかして父さんのその写真をそういう人達に売り付けようとしてるの……っ……や、止めて……っ……止めてよ……父さんに……ううん、父さんだけじゃない……光太郎にも……いいや、僕の家族に酷い事しないで……っ……」
必死で泣きじゃくりながら―――市正鬼助の下卑た行為を制止させようとするために、身も心もズタズタになりながらも彼にすがり付く。
カシャッ…………
すると、今まで地蔵のように身動きすらせずに佇んでいただけのお付きの者の方から嫌な音が聞こえてくる。今まで、何度も聞いた事のある音だ―――。
僕にとってカメラのシャッター音は不思議な気分にさせてくれるものだ―――。
【今よりも仲良くしていた幼い頃の光太郎がいつも持ち歩いていたカメラ】は―――僕に笑顔と喜びを与えたものだ。
【夢月の親戚である光さんから襲われ恥態を撮影するために構えられたカメラ】は―――僕に悲しみと恐怖を与えたものだ。
「日向くん……今は黙って―――この方の言うとおりにしてくれ……そうじゃないと……息子の翔に……」
「ん……ああ、流石のお前も―――疫病神であるこいつの……親友だった翔の事が心配なんやなぁ。まあ、そりゃそうか……翔はお前の息子……やしな……そうや、いいこと思いついたわ」
市正鬼助にすがり付くようにして、泣きじゃくり続ける僕の様を見て―――ふいに、今まで地蔵のように無言で佇むだけだった《付き人》が静かに此方へと歩み寄ってきて諭すかのように僕に囁きかけた。
かつて、まだ村から追い出される前に光太郎と共に仲良くしていた【九条 翔】の父である【九条 静夜】さんの声が聞こえて思わず泣きじゃくるのを止めてしまった。
面と向かって見た翔くんの父親である静夜さんの目は―――とても真剣なもので悲しみと焦りに包まれていたからだ。
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