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第163話

※ ※ ※ 「ん……っ……おい、もっとしっかりやりや……おい、糞ったれ……お前も、ちゃんとこの疫病神の恥態を撮影しろよ?世の中にはガキが好みの変態爺もいるからな……そいつらに売りさばいてガッポリ稼いでやるっち……俺の顔まで写したら承知しねえぞ。そんな事したら、代わりにお前の息子を同じ目にあわせてやるっちな」 「うっ……ううっ…………うっ……うぇっ…………」 喉がイガイガするのと同時に全身が怒りと情けなさで震えてしまう―――。 それもこれも、市正鬼助の汚ならしいぺニスを頬張りながら必死で口を上下にジュポジュポと動かしているせいだ。 結局、僕は翔くんの父親の言葉にそれ以上為す術なく―――目の前にいる下劣な【市正鬼助】の言いなりになってしまっていた。子供の無力さでは―――大人(年上)の命令には逆らえない。 今まで、ずっと―――そう思っていた。 だからこそ、市正家一族から村を終われた時も抵抗は愚か―――反論の言葉ひとつかけられずに悔やさだけを募らせる事しか出来なかったのだ。でも、父さんは―――そんな情けない僕に何も言う事なく、無力だと責めるような事もしなかった。 ただ、ただ―――孤独だと思っていた僕の小さな背中を擦りながら共に村から追い出され、今の家に引っ越してきてくれたのだ。 今の家に引っ越してきたばかりの頃の父さんは―――僕に対して言葉すらかけてくれない薄情者だと思っていた。でも、今ならそんな考えは間違いだった、と身を持って分かる。 (父さんは―――ただ、不器用で神経質なだけの人だったんだ……本当に僕に対して愛がなかったのなら……他の人達みたいに僕の存在すら亡き者にしようとして関わる事さえ止めて……しかるべき施設にでも押し付けたはず……でも、父さんはそうはしなかった……) 必死で【市正鬼助】のぺニスを舌で愛撫しながら―――僕は父さんに対しての愛を改めて直談判した。そして、そんな過去の思い出を遡っている内に『リー……リィー……』と虫の音色しか聞こえない森の中でこんな惨めなことを強要させられて下衆な奴にいいようにされている事に対して―――前に暮らしていた村から理不尽に追い出された時でさえ抱かなかった身の底からフツフツと沸き上がる凄まじい怒りに支配されてしまう。 『本当に……きみは―――それでいいの?そんな奴の言いなりになって―――それで満足?』 どこからか、若干の懐かしさを帯びた優しく心地よい誰かの声が聞こえてきた気がした。どこかで聞いたような覚えがあるものの、すぐには思い出せない。 しかし、それでも――― 卑劣で下衆な【市正鬼助】の言いなりになっていた僕の行動が間違っている、と思直させてくれるには充分だったのだ。 いくら子供で力では無力な僕でも、いつまでも下衆な奴の言いなりにはなっていられない。それに年齢には関係なしに、人間の体の中には武器になる物だってある。 僕の前世でロギンと呼ばれる生け贄達が【ソレ】をナイフの部品に使用し武器として受け継がれたように―――。 ガブッ…………!! 「ちっ……いってぇな……この糞ガキの―――疫病神が……っ……!!」 と、思いきり歯を立てて噛みきってやらんばかりの勢いで奴のぺニスに噛みついた途端に当然といわれれば当然なのだけれど【市正鬼助】が僕を乱暴に突き飛ばして顔を目掛けて殴ろうとしてきた。 すると―――、 「疫病神はお前だ……市正鬼助。とっとと……大事な日向から離れろ……じきに、お前達の一族が騒ぎを聞きつけて此処にやってくる……それが嫌なら……俺の命よりも大事な日向からさっさと離れろ……っ……!!」 世界で一番大好きな父さんの、地を震わせんばかりの凄まじい怒号が聞こえてきて地面に横たわったままの僕の体を優しく引き上げると―――そのまま庇うようにギュッと抱き締めてくれる。 息苦しさよりも、暖かさのほうが上回り余りの安堵さから自然と笑みを浮かべる僕なのだった。

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