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第177話

※ ※ ※ 「さて、授業を始める前に―――明日の遠足についてのプリントを配るからな~。きちんと、親御さんにも見せておくように。あと、当日は山だけじゃなくて川にも行くから水着を忘れるんじゃないぞ~……もし、枚数が足りない場合はすぐに教えろよ?」 「はーい!!」 一時間目の授業が始まる前に―――担任である鬼村先生が大量のプリントを抱えながら教室に入ってきた。そういえば、前に『遠足前にしおりを配るからな』とそんなような事を言っていたような気がする。 皆の弾むような声が教室内に響いた後、どんどんと順番にプリントが回ってくるのだけれど―――前の席に座っている夢月からプリントを渡されて目を通した時の事だった。ふいに、言い知れない違和感を覚えたのだ。 プリントの右下の余白部分に―――小さな文字で【腐望池】と書かれていた。でも、明日の遠足に選ばれた場所は《青砂山》と《青砂川》だったので、僕は訳が分からずに一瞬フリーズしてしまったかのように身動きが取れずに、ただひたすら【腐望池】の文字をボーッと見つめてしまっていた。 しかし―――、 「おい、おい…………っ……木下日向!!いつまでボーッとしているんだ……っ……授業はとっくに始まっているぞ……まったく、夢でも見てるんじゃないのか……罰として教科書44ページを読みなさい!!」 一体、どのくらい―――遠足についてのしおりに小さく書かれていた【腐望池】の文字を見続けてしまっていたのだろう。僕は、怒りに支配されてしまっている鬼村先生に雷を落とされてしまった。 慌てて、教科書44ページを開いて朗読しようと口を開きかけた時、僕の身に新たな異変が現れたのだ。 教科書の文字がぼやけて、見えない―――。 そして、暫くして―――それは僕自身が無意識の内に涙を流してしまっているからだと分かった。 涙を流してしまう理由なんて―――ある筈もないのに。

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