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第178話

『何か―――とてつもなく大切な事を忘れてる気がする……』 ※ ※ ※ そんな事を悶々と考えつつも―――授業を終えて、軽快な足取りで夕陽が差し込み橙色に染まっている人気の少ない廊下を駆けて行く。 明日の遠足に備えて、夢月と共にこれから駄菓子屋に向かうのだ。本当であれば井森くんと矢守くんとも行きたかったのだけれど、二人は用があるから行けないそうだ。仕方なく僕と同じくまだ遠足の準備を終えていない夢月と共に行く事になり、僕はひとあし先に教室を出て行って下駄箱で待っているであろう夢月の元へと向かうために急いで廊下を駆けて行く。 「……っ…………!?」 と、その時だった―――。 ふと、急ぎ足で廊下を通り過ぎながら『外が薄暗くなってきたなぁ』などと思いつつ何の気なしに一つの窓に目線をチラリと移した時に僕の目に飛び込んできたのは《気味が悪い》としか言い様のない光景だった。 大きめのナメクジが窓の外側のガラスにへばりつき、それを一匹のトカゲ(もしかしたら違う生き物かも)が今にも補食しかねない勢いで赤い舌をチロ、チロと動かしながら間近に迫っている。すると、その直後―――おそらくトカゲらしき生き物が大きな口を開き、いただきますといわんばかりに動きが鈍く絶体絶命のピンチを迎えているナメクジを飲み込んだ―――かと思うと、そのまま二匹は窓から下へと落下してしまった。多分だが、今頃は雑草の上に二匹とも這いずり回っていると思われる。 ナメクジはうまく―――あのトカゲみたいな生き物から逃げきれただろうか、と僕が窓を開けて不安げに外の様子を覗き込んでいると、ふいにポンポンと肩を誰かから叩かれた。 (夢月……!?) てっきり、下駄箱の前で待っていた夢月が痺れをきらして僕を探しに来てくれたんだと思い込んでしまっていて慌てて振り向いた。 しかし―――そこには僕の予想を遥かに上回る意外な人物が立っていた。 「ちょっと……こんな場所で何してんの!?お兄ちゃんったら……親友の夢月さんを待たせて悪いと思わないの?もう、本当にお兄ちゃんってば―――マイペースなんだから!!」 ―――それは、病気療養のために一時的に離れて暮らしている弟の光太郎だった。

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