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第179話

「それより、お兄ちゃんさ……夢月さんやイモとヤモと遊ぶのもいいけど―――たまにはボクとも遊んでよ……っ……市正家の皆だって、お兄ちゃんのこと心配してるんだから……」 「わ、分かってるよ!!僕が大好きなお前を放っておくわけないだろ……っ……」 胸にぶわっと暖かな感情が沸き上がってきて、我慢出来ずにぎゅうっと弟の光太郎の体を抱き締める。光太郎はきょとん、としていたが、そんな事はお構い無しに僕は弟の体を抱き締めてその感触を味わった。何故だか、それをしないと一生後悔してしまうような気がしたのだ。 【皆さん、下校時刻になりました……まだ学校にいる生徒は早めにお家へと帰りましょう】 もっと、もっと―――弟である光太郎とのひとときを噛みしめていたかったけれど、放課後のチャイムと共に聞こえてくる鬼村先生の声で終わりを迎えてしまった。 「じゃあ、お兄ちゃん……またね!!」 「う、うん……気をつけて帰りなよ……光太郎!!」 そう言うと、僕は―――完全に見えなくなるまで光太郎の後ろ姿を後ろ髪を引かれるような思いで見送った。 ※ ※ ※ 光太郎と話していたせいで―――かなり遅くなってしまった。 もう、夢月は先に帰ってしまったかもしれない。それでも、いつでも側煮いてくれてた優しい夢月の事だから―――もしかしたらまだ待っていてくれているかもしれない、と早足で下駄箱へと向かって行く僕の目に今度は同級生である小見山くんの姿が飛び込んできた。 乱暴でぶっきらぼうな印象を持っている小見山くんは―――いくら同級生とはいえ、あまり話した事がなく正直苦手だ。心の中で申し訳ないと思いつつも小見山くんの存在を無視して、先に進もうとする僕だったけれど―――何故か、僕が歩みを進める度にそれを阻むかのように彼も移動してくる。 「な、何……っ……小見山くん、僕に何か用?」 「別に……ただ、お前―――何で、さっきアイツと仲良さげに話してたんだよ?」 (この氷みたいに冷たい声―――やっぱり、苦手だ……) 「アイツって……光太郎のこと?光太郎は弟なんだから……仲良く話したって……別に……っ……」 『おかしくなんかないでしょ?』と声を出そうとしたのに―――急に何かが喉に詰まってしまったかのように言葉を失ってしまった。 「なんつうか、その……うまく言えねえけどよ……お前とアイツは―――そんな感じじゃなかっただろ?」 その小見山くんの言葉を聞いた途端に今まで感じた事がないような腸が煮えくりかえる程の凄まじい怒りを感じてしまう。弟である光太郎との先程のやり取りを全て否定されたような気がした僕は―――気がつくと小見山くんの胸ぐらを掴んで彼に殴りかかろうとしていたのだった。

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