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第181話
◆ ◆ ◆
―――暑い。
――まるでサウナのように熱気が込もっていてあまりの暑さにボーッとしながら雲海の如く真っ白な空間に佇んでいたのだが、夢の中だと気が付いた僕はぼんやりとしていた意識を周りの光景へと移すと辺り一面を覆い尽くしてしまって見えにくい中で何処にいるのか確認した。
(此処は―――この前まで見てた僕の家の夢じゃない……でも、知っている場所だ……闇に覆われた年中日差しが入りにくい森の中―――それに、あの古井戸と石碑……ここは、遠足場所の青砂川と青砂山じゃないか……っ……)
得たいの知れぬ不安と不気味さで胸騒ぎを起こした僕は、これが確実に夢であるか確かめるためにザク、ザクと湿った地面に敷き詰められている落ち葉を踏みながら―――とある場所へと向かって行く。
古井戸の側に立っている石碑のある場所だ―――。
これが現実であるならば、触った時に石碑の冷たい感覚を味わえるし―――常に現実と切り離されてる曖昧な夢とは違って石碑の表面には深々と【禍厄天寿】と刻み込まれている筈だ。
(と、とにかく……石碑を確認してみなきゃ……)
と、僕が石碑の前で膝まづいてその感触を確かめようと手を伸ばした時―――、
【一夜き、二夜き 夢こごち】
ずり、ずるり___
【二夜き、三夜き 忘れんぼ】
ずり、ずり___
【四夜き、五夜き 怒りんぼ】
ずり、ずるり___
【六夜き、最後も 夢こごち】
___まただ、また女の子の可愛らしい金糸雀のような歌声が聞こえてくる。それに――ぽん、ぽんと毬を突くような音も歌声と同時に僕の耳を刺激してきた。
でも、それだけじゃない―――。
女の子の心地よくなる透き通った歌声と、毬を突くような音とは別にすぐ近くから何かが這い出てくるような―――もしくは、何かを引き摺るような不気味な音が聞こえてくるのだ。
(あ、あそこだ……あの古井戸の方から聞こえてくるんだ……でも、この不気味な音も気になるけど先にこの石碑を……確認しなきゃ……)
ちら、と真っ白でわたあめのような霧に包まれ不気味さを醸し出している古井戸の様子を目線だけで一瞥してから石碑の表面を見つめる僕だったが―――特に石碑に変わった様子はなく、尚更夢と現実とが曖昧になっているせいでもやもやした気分を抱きつつ石碑を触ろうとした時―――微弱なものだが、異変を感じてしまう。
右目に今まで抱いた事のないような途徹もない違和感を覚えたのだ―――。
目ん玉全体に凄まじく異様な熱さを感じ、途端に目の前の光景がぐにゃりと歪む。まるで、炎で焼かれて溶かされた蝋のようにぐにゃり、ぐにゃりと右目だけが歪み視界が見えにくくなるという奇妙な感覚を抱く。その奇妙な感覚に恐怖を感じ思わず両手で右目を抑えようとした時、ふと石碑の文字のある部分がぐにゃり、と歪み【禍厄天寿】から【家厄天呪】へと文字が変わった事に気付いたのだが、そんな事に構っていられない僕は救いを求めるかのようによろ、よろとした足取りで蓋など閉められていない剥き出しのままの古井戸へと意図せず向かって行ってしまう。
すると―――、
【ようやク……ようやクだ―――愛しい、ニンゲン……】
と、古井戸の中から黒い人型の【ナニか】が飛びかかってきて―――井戸の中に吸い込まれるかのようにして落ちそうになった所を襲いかかる____
※ ※ ※
と、いった場面で___僕は慌てて飛び起きた。
夢から現実へと戻ってきた、と胸を撫で下ろした僕は真夜中だというのに既に疲れ果ててしまい、更に喉がカラカラに渇いていたため、のそっと布団から身を起こす。
そして、そのままカラカラに渇いた喉を潤すために台所まで向かおうと立ち上がるのだった。
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