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第185話
※ ※ ※
ザア、ザアと青砂川のせせらぎが聞こえてくる。その清らかな音を聞くだけで、先ほど襲ってきた目の痛みと一緒に暮らしていて家族ともいえる小鈴に対して我慢ならないくらいに凄まじい苛々をぶつけてしまった事を忘れそうになってしまう。
もっと、もっと集中して耳を澄ましてみると、爽やかな鳥の囀りまで聞こえてきて荒んだ心がスーッと浄化されていきそうだった。
これから、ここで―――クラスの皆と泳いだり、カヌーで川下りをしたりと夏を満喫する予定なのだ。ほとんどのクラスメイトは既に水着に着替えていて準備万端といった様子だけれど、僕と小鈴だけは―――まだ水着に着替えていなかった。それもそのはずで、ついうっかりバスの中に水着が入ったバックを忘れてきてしまったのだ。
(い、いけない……っ……早く取りに戻らなきゃ……っ……)
と、僕が―――バスに戻るために鬼村先生を探していた時のこと。
ぱしっ…………!!
「…………?」
少し離れて遠慮がちにもじ、もじしていた小鈴が急に腕を勢いよく音がするほど叩いたのだ。青砂川に着く前に彼を怒鳴ってしまったせいで、かなり気まずかったものの―――やっぱり、どうしても気になりチラリと彼の方へと目を向ける。すると、バッチリ目が合ってしまい「大丈夫か?」と答える前に小鈴が慌てて僕の方から目線を脇に移すと、そのままススッと後退りしてしまった。
小鈴は、やっぱり先ほど人が変わってしまったかのように怒鳴りつけた僕を怖がっているし、それと同時に許してくれてはいないようだ―――。
「お、おい……大丈夫か……って……う、腕から血が出てるじゃないか……こ、これでも巻いとけ」
「ヤモってば―――小鈴くんには優しいんだぁ……ぼくには唾でもつけてろって言うくせに……ふーん、小鈴くんには優しいんだね」
と、とてつもない気まずさにいてもたってもいられなかった僕の前に救世主が現れた。ずっと前からクラスメイトである井森くんと矢守くんが僕の代わりに腕をピシャリと叩いた小鈴に対して何があったか尋ねてくれたのだ。そして、矢守くんがどことなく照れ臭そうにしながら白い布を優しい手付きで小鈴の腕へと巻いてくれた。
すると、何故か少し緊張してる様子で小鈴は―――こう答える。
「う、うん……だ、大丈夫なのです……その―――蚊に刺されただけだから……っ……」
※ ※ ※
その後、申し訳ないと思いつつ小鈴の事は井森くんと矢守くんに任せて鬼村先生に水着を忘れてしまった事を説明した僕はバスへと戻りバッグを持ってくると―――そのまま、無言で水着を小鈴へと渡してやっと川で遊ぶ準備を済ませたのだった。
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