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第186話
※ ※ ※
ピピィ~!!
「おーい、そろそろ泳ぐのは一休みしてスイカ割りをするぞ~!!ほら、こーんなに大きなスイカだ―――お前たち、くれぐれもがっつくんじゃないぞ!?」
澄んだ水底を優雅に泳いでる魚や小ガニなどを捕ったり、潜りっこをしたりと各々のグループで好き勝手にはしゃいでいると、ふいに少し離れた場所から普段の授業中とは比べ物にならないくらいに活発になっている僕らを見守っていた鬼村先生が首にぶら下げている笛のけたたましい音が聞こえてきた。
すると、クラスメイトたちは順々に未だに笛を口に咥えている鬼村先生の元へと集まって行く。僕は何故か小見山くんに誘われ、珍しく二人で泳いでいたのだけれど笛の音が聞こえた途端にザバッと川からあがろうとした時に隣にいた小見山くんから意外な言葉をかけられた。
「なあ、お前さ……やっぱり何かおかしいだろ。今朝―――小鈴のヤツに何か酷い事を言ってたように見えたぞ。まあ、流石に何を言ったかなんて分からねえけどよ……でも、お前―――本当はそんな嫌なヤツじゃねえだろ?」
(し、しまった……まさか―――小見山くんに朝の僕と小鈴との喧嘩を見られてたなんて……っ……早く、早く誤解を解かなきゃ……)
「ち、違うよ……あれは、その……小鈴とちょっと喧嘩しちゃっただけで……っ……」
僕のせいじゃない、と咄嗟に言おうとした時―――、
「じゃあ……何でお前は今、泣いてんだよ……っ……お前だって小鈴のヤツに酷い事をした。自分はおかしい状態だって……とっくに気付いてる筈だ……だから泣いてんだろ!?」
『う、うるさい……っ……うるさいっ……お前に何が分かるんだ……お前なんか単なるクラスメイトの一人でしかないくせに……っ……』
と、目の前で戸惑う僕の腕を遠慮なく掴んでくる小見山くんに怒りの言葉をぶちまけてやりたかったのだけれど―――それをする前に、ドンッと勢いよく彼を突き飛ばしてしまった。
青砂川が―――比較的浅い川で良かった。
もしも、深い川で尚且つ流れの早い川であれば僕が突き飛ばした拍子に彼はそのまま流れていってしまい帰らぬ人になってたであろう。
鬼村先生を含めクラスメイトたちは―――スイカ割りの事で頭がいっぱいで、僕と小見山くんのやり取りなんて眼中にないのだろう。
でも、一人だけ―――例外がいた。
夢月だ―――。夢月の飴みたいな丸々とした黒い目ん玉が小見山くんを突き飛ばした僕の様子を恨めしそうにジーッと見つめている。
そして、彼はそのままニッコリとわざとらしく頬笑んでから川の中で尻餅をついてしまった小見山くんと棒立ちになっている僕の方へと近づいてくる。その度に、バシャバシャと跳ねる水の音が聞こえるが―――夢月はそんなのはお構い無しだといわんばかりに此方へと近寄ってくると、そのまま僕の存在など眼中にないと言いたげに無視してから、尻餅をついてしまったまま起き上がれない小見山くんへと手を差し述べるのだった。
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