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第187話
※ ※ ※
「鬼村先生ってば……海でもないのにスイカ割りだなんて―――ちょっとズレてるよね……って……それは、ボクらのグループも一緒か。川の中でビーチボールで遊ぶなんて、なんか変な気分―――ねえ、そうは思わない……日向くん?」
「えっ……そ、そうだね……夢月……」
目の前で微笑みながら朗らかに話しかけてくる夢月を見て、昔からの親友同士で気を許せる相手といえども、ビクッと体を震わせ怯えつつ答えてしまった。その僕の様子を見て、夢月は先ほどのように一見微笑んでいるように見えて―――目だけは怒りを露にしているという複雑な表情で僕を凝視する。
ザア、ザアと川のせせらぎが聞こえてくる―――。
ミーン、ミーンと蝉の鳴く声も聞こえてくる―――。
クラスメイトたちがわあ、わあと騒ぐ声も聞こえてくる―――。
それなのに、僕と向き合う夢月はとても静かに僕の目を真っ直ぐに見つめてくるのだ。まるで、何かを言いたげに―――それでいて、どことなくそれを躊躇しているかのように、ただ無言で僕の目を真っ直ぐに見つめてくるばかり。
「日向くん……本当に―――い――の?」
「えっ…………!?」
ようやく口にした夢月の言葉は―――蝉の鳴く声で掻き消されてしまう。まるで、寒い冬の日に吐く息が空中に霧散してしまうかのように―――蚊の鳴くような儚い声があっけなく蝉の鳴き声に掻き消されてしまったのだ。
「あ、あの……っ……ビーチボール―――こっちに投げてくださいなのです……夢月さん……っ……」
「え、ああ……ごめん、ごめん……それじゃあ、そっちに投げるよ~!!」
小鈴なりの配慮だろうか―――。
気まずそうにしている夢月と僕の様子を見て、まるでタイミングを見計らったかのように夢月へと声をかけてくれた。そのせいで、夢月が何を言いたかったかは謎になってしまったけれど―――それでも、僕らはビーチボール遊びを再開した。昔から親しい井森くんと矢守くん、それに小鈴がいるのはともかくとして―――どうしてあまり仲が良いとはいえない小見山くんがグループにいるのかは疑問だったけれど、それでも太陽の光の下で僕らはビーチボール遊びを楽しんでる。
それで、いいじゃないか―――だって、この時間はこんなにも楽しいんだから。
※ ※ ※
それから、暫くして―――ふいに小鈴が夢月に向かって投げたビーチボールが軌道を逸れて奥にある雑木林の中へと勢いよく転がっていってしまった。他のクラスクラスメイトらが拾い上げてくれるかな、と僅かに期待していたのだけれど―――はしゃぐのに夢中で、それどころではないといわんばかりに皆好き勝手に遊んでいる。それは、担任である鬼村先生も例外じゃない。
「ごっ……ごめんなさい……ぼく、とってきます……ああっ……!?」
ガッ…………!!
「小鈴………っ……大丈夫か!?」
「ひ、日向さん……っ……」
と、地面の石に足をとられて前屈みに転んでしまった小鈴に慌てて近寄ろうとした僕だったけれど―――その前に夢月が小鈴の元へと近寄って彼の怪我の状態を見てくれた。
その時、またしても魚の骨が喉に引っかかったかのような微妙な違和感を覚える。それと同時に、右目のゴロ、ゴロとした違和感も少し強くなった。しかし、痛みはないので安心していたところ夢月が不安げな表情を浮かべて僕の方へと目を向ける。
「うーん……多分、大丈夫だと思うけど―――心配だから一応安静にしてた方がいいね。日向くん―――悪いけど、あっちの雑木林に行ってビーチボールを取ってきてくれないかな?」
「う、うん……分かったよ……夢月―――」
と、僕が了承してからチラリと不安げに小鈴の様子を見つめると―――そのまま彼と目が合ってしまい、慌てて顔を背けて雑木林の方へと歩もうとする。
すると―――、
「待てよ、俺も行く―――別に良いだろ?」
「えっ……で、でもっ…………」
小見山くんが僕と共に雑木林にビーチボールを取りに行くと提案した途端に、夢月が僅かに困ったような表情を浮かべてチラリと小見山くんを一瞥した。
そして、何かを言いたげな素振りをしたけれど―――小見山くんが夢月をジロリとキツく睨み付けたため仕方がないといわんばかりにコクリと頷くのだった。
「じゃあ……小見山くん―――日向くんは任せたよ?」
「ああ…………」
そういう訳で、僕は仲が良いとはいえないクラスメイトの小見山くんと昼間でも陰鬱な雰囲気を醸し出してる雑木林へと入って行くのだった。
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