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第192話
◆ ◆ ◆
―――数日後。
「日向――早く学校に行く支度をしなさい。お友達が待っているだろう?」
「う、うん……分かってるってば……日和父さん!!」
ボーッとして朝ごはんを食べる手が止まってまっていた僕に日和父さんの厳しくも優しい声がかかる。ボーッとしてしまっているのは、もちろん数日前にクラスメイトだった小見山くんを手にかけてしまったせいだ。まだ、彼の体にナイフを突き刺した時の感触が完全には消え去っていない。それは、朝ごはんの時に僕の大好きなハンバーグ(日和父さん自慢の一品だ)にナイフを突き立てた時に自覚した感情だった。
だからこそ、朝ごはんを食べるスピードが落ちてしまっていたのだけれど―――そんな憂鬱な気分は日和父さんの次の言動で全て吹き飛んでしまう。
「日向―――ほら、私の目を見なさい。私は、いや……お前の父さんでもある私は――ずっとお前の味方だ。私はお前を愛している……お前と私がずっと一緒にいれば不安も恐怖も―――いいや、それだけじゃなく負の感情全てがなくなる……わかっているだろう?」
「う、うん……っ……」
『さて、続いてのニュースです……数日前、一人ノある少年が偉大なる事をなされました……日向くん……は……ある異常ナる者を……の世界から……消し去り、こノ世界ノ住民となる事を決意ナサレました……さて、続いてのニュースです……数日前、―――――』
日和父さんと真向かいで対面し―――互いに向き合って見つめ合っていると周囲から女性アナウンサーの淡々とした声が聞こえてくる。普通であれば無機質にニュースを読み上げる彼女達の言動は不快とはいわないものの【ロボットみたいだな】としか思えないけれど、第二の父さんとなってくれてかけがえのない命よりも大切な【家族】である日和父さんと過ごすこの空間ではさながらカップルのムードを引き立ててくれる重厚なクラシック音楽のようにも聞こえてくるのだ。
「さてと、ずっとこの二人きりの時を過ごしていたいが―――お前の大切なお友達を待たせる訳にはいかないな。さあ、早く朝ごはんを食べてから学校に行きなさい。日向、どうした―――まだ何か不安な事でもあるのか?」
「えっ…………ううん、何でもないよ……気にしないで……父さん。それじゃあ、いってきまーす……って……あっ……!?」
ドンッ…………!!
朝ごはんを食べ終わり、身支度もし終えた僕は勢いあまって机にぶつかってしまう。そのせいで、バサッと新聞が落ちてしまった。
【激写!!一人ノある少年―――異常ナる者を殺害……住民からは多くノ賞賛ノ声!!】
【殺害された異常ナる者ノ正体―――それハ住民も驚愕する程ノおぞましい姿だった!!】
【異常ナる者を殺害した一人ノある少年―――早くも界民栄誉賞候補トして《ノみねート》される!!界民ノ大物たちも賛辞ノ声!!】
僕がその新聞記事の見出し(よくは見えなかったけど写真付きのもあった)に釘付けになっていると、ふいに日和父さんから新聞を奪われてしまった。
いきなりの事で驚きを隠せない僕は慌てて真上へと目線を移す。そこには、笑顔を浮かべる日和父さんがいるだけだ。
「日向―――さあ、早く学校に行きなさい。道中気をつけるんだぞ……お前はすっかり有名人となってしまったからね」
「な、何を言※※っ※※※____はいはい、分かってるよ……日和父さんったら心配症なんだから!!でも、そんな日和父さんも―――だ、大好き……っ……じゃあ、言ってきまーす!!」
僕は落としてしまった新聞誌を慌てて拾い上げるとそのままランドセルを担いで、玄関まで勢いよく向かって行く。そうしているうちに、先ほどまで抱いていた喉に小骨が刺さったかのような小さな違和感はスーッと消え去っていく。
(どうして……この家に他の誰かも一緒に住んでるみたいな変な事を考えてたんだろう―――この家で暮らしててるのは僕と日和父さんしかいない筈なのに……っ……)
ガラッ…………と勢いよく扉を開けた途端に目に飛び込んでくるのは―――いつも登下校を共にしている親しい友人の姿。
笑顔の彼が目に映るだけで―――僕はとてつもなく安心する。
「遅いヨ、日向くんってば……もう有名人にナったからって―――気をよクしすギ!!」
「だ、だ※※れ※※※※※※____ごめん、ごめんっ………苦呂乃くん……日和父さんとお話してたらすっかり遅くなっちゃって!!すぐに、行こう!!」
こうして、僕は昔からの幼なじみでありクラスメイトでもある【苦呂乃(くろの)くん】と共に二人で学校へと急いで駆けて行くのだった。
学校がすぐ近くに建っていて___良かった。
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