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第193話

※ ※ ※ 学校に向かう途中での道のりで、犬を散歩させてるヒトに会えば【お目出とう】、そして畑仕事をしているヒトたちに会えば【お目出とう】と出会うヒトビトから口々に僕は挨拶された。 全員が全員そうではなかったものの、中には目に涙を浮かべながら【お目出とう】と賞賛の言葉を告げられ、あまりにも大袈裟なそのヒトの態度に対して戸惑いも感じていたのだけれど―――それと同時に戸惑いとは真逆ともいえる感情がふつ、ふつと僕の心に沸き上がってくる。 そう、喜び―――心の底から感じる満ち足りた気持ち___つまりは今のこの状況に対しての【充足感】だ。 単なるヒトの子供でしかない僕に【お目出とう】と賞賛の言葉を浴びせてくれるヒトビトがいる___中には拍手しながら、目に涙を浮かべながら、口元が裂けてしまうのではないかというくらいに満面の笑みを浮かべながらこのヒトビト達は【僕】を認めて賞賛して褒め称えてくれているという事実―――。 【お目出とう、お目出とう―――日向くん!!】 【親御さんモ―――さぞかシ、シアワセでしょうネ。お目出とう、お目出とう……偉大なル殺人者ノ――日向くん!!】 そんなヒトビトの有難い賞賛の言葉を耳にし、言いもいえぬ満ち足りた気持ちを抱きながら学校の門を親友の【苦呂乃くん】とくぐるのだった。 ※ ※ ※ ガラッ……!! 【お目出とう、お目出とう―――日向くん!!】 【みんなに認められテ……お目出とう―――授業ノ前に体育館デ―――日向くんの《お目出とう会》するっテ鬼村センセえが言っテたノ……早ク、早ク……】 見慣れた教室に一歩入るなり、クラスメイトのヒトビトが拍手喝采で僕を迎え入れる。黒板には《日向くん―――名誉ある異常なル者を殺人しタ者として、界民栄誉賞ノみねート候補――お目出とう!!》とデカデカとチョークで描かれている。 きっと、【僕】のために―――【僕】を喜ばそうとしてくれるために今ここにいる鬼村センセえやクラスメイトの皆が用意してくれていたのだろう。 その粋なはからいに―――思わず、ぽろりと涙が零れてしまう。 もちろん、嬉しさからだ___。 その時―――、 【※※※組ノ日向くん―――お目出とう!!これから体育館にテ、表彰式を行いまス―――この×××ノ皆さんハ―――体育館に集まっテ下さい……お目出とう、お目出とう……お目……ザァ、ザァァ……出とう……ザァ、ザァァ~……ブツッ……!!】 黒板の右上にあるスピーカーから校長先生のの声が聞こえてくる。校長先生の言葉は絶対だ、といわんばかりに皆がぞろ、ぞろと列をなすようにして一斉に教室から出て行く。 【日向くん―――さあ、一緒ニ……行こう!!】 「い、いや……夢※※___う、うん……苦呂乃くん―――行こうか!!」 僕らは、共に体育館まで手を繋ぎながら古い木が軋む廊下を列をなした歩いて行く。 時計の針は____4時、44分。 でも、【僕】はそれには気付かない___。

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