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第194話

◆ ◆ ◆ ぱち、ぱち…… ぱち、ぱち、ぱち…… 体育館に着いた僕を迎えるのは___ヒトビトの拍手喝采。壇上に続いてる真ん中の道を開けて、両脇に所狭しと並んだクラスメイトや在学生徒達が笑顔で僕を出迎えてくれる。壇上には同じくニコニコと微笑む校長先生が立っていて、そして壇上の中央に掲げられた垂れ幕には【第×××回、偉大なル少年―――日向くんのお目でとう会!!誠ニお目出とう、お目出とう!!】の文字___。 此処には、もはや___本来であれば単なるヒトの子供でしかない僕の【功績】とやらを称えてくれる有難い存在しかない。それがたとえ、どんなに悪事からくる【功績】であろうと此処にいる存在にとっては些細な事でしかないのだろう。 ヒトビトから褒め称えられるというのは―――悪い気はしない。しがない単なるヒトの子供の僕は、今や偉大なル殺人者として皆に称えられるまでになったのだ。自然と、笑みが零れてしまう。 【さあ偉大なル少年日向くん―――壇上へ、壇上へ……】 「は、はい……っ……今、すぐに……っ……」 と、僕が壇上へと続いてる通路の端でボーッと突っ立って周りのヒトビトからの賞賛を浴びる幸せをこれでもかと噛みしめていた時の事___。壇上で満面の笑みを浮かべつつ声をかけてくる校長先生の言葉に対してハッと我にかえった僕が一歩足を踏み出した直後、一瞬___半袖の白シャツを着ているせいで剥き出しになってる右腕にチクッとした注射のような痛みと若干の不快感を覚えて慌ててそちらに目線を向ける。 パッと見は___特に異常など見当たらない。強いて言えば小さな小さな赤い発疹のようなものが見えるくらい。 【日向くん―――校長先生ガ呼んでるのだカラ……早く行きなヨ?】 「えっ……あっ…………そ、そうだね……苦呂※※※ううん、___夢月!!」 両脇いる群衆の中で同じくニコニコと微笑みながら壇上へと向かおうとしている僕へ声をかけてきた【苦呂乃くん】へと返答した瞬間、体育館に異変が起き始める。 体育館の透明ガラスで作られてる天窓から見える景色は、澄み渡る青空が美しい昼から―――天を覆い尽くす程に黒い闇が広がる夜となる。 両脇の群衆やクラスメイト(在学生徒含む)や壇上にいる校長先生や担任の鬼村先生といったヒトビトは狂ったように叩いていた拍手をピタリと止め、無言で此方を睨み―――特に【苦呂乃くん】だと僕が知覚していた存在は僕が意思に反して【夢月】と言ってしまった瞬間、凄まじい怒りと僅かな焦りの表情を浮かべつつ途端に此方へと駆け寄ってくると黒い手で僕の首をぎり、ぎりと絞め始めるのだ。 【此処カラ……逃げヨうとすルなんテ……っ……】 そう繰り返し言いながら、親友である筈の【苦呂乃くん】は僕の首を絞め続ける。 「……や、やめ……っ……た、助け……っ……だ、れか……っ……」 ぱち、ぱち、ぱち…… ぱち、ぱち…… 僕が苦しそうに顔を歪める度に―――両脇に体育座りをしている群衆達から再び拍手喝采が起こる。しかし、先ほどと唯一違うのは___今起こっている拍手喝采は今度は僕に対しての賞賛ではなく僕の首をぎり、ぎりと音がしそうな程に強く絞め付けている【苦呂乃くん】に対してのものだというのに気付いた瞬間、今度こそ僕は___ハッと我にかえって目が覚めた。 「き、きみは……誰……っ……父さんや夢月、日和叔父さん……それに――カサネや小鈴や小見山くんは……どこにいるの!?一体、僕の大好きなヒトたちに……何を……っ……」 【あそこヲ……見てみろ―――愛しいヒト。お前ノ大好きな奴ラが―――お前ヲ忌まわしそうな目デ見ているゾ?】 僕がココという世界で、存在自体を見てみぬ振りをしていた父さんとカサネ―――。 僕がココという世界で、自身で手にかけたにも関わらず、尚且つ偉大なル殺人者として周りのモノたちから誇られるという事で殺人という大罪から見てみぬ振りをしていた小見山くん―――。 壇上でパイプ椅子に縄で縛りつけられ、うねうねと蠢いているナメクジの大群にその身を飲み込まれそうになり今にも暗闇に溶け込みそうになりながらも三人の目が忌々しそうに僕を睨み付けてくる光景に―――気付いてしまった。 その途端に、僕の足はまるでナニカに操られてしまったかのように一歩、一歩―――意思に反して壇上へゆっくりと近づいていく。 僕は正気に戻ったというのに―――。

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