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第196話
硝子の雨が降ってくる―――。
それと同時に闇を纏う巨大な烏に乗っている人物が二人―――。
キラキラと輝きながら降りそそぐ硝子の破片に為す術なく身を屈めて怯える事しかかなわない僕を庇うようにして両翼を広げて光り輝く満月が照らしている夜空から【舐苦童子なる呪場】である体育館という異様な地に舞い降りたのは正気を取り戻した僕が会いたくて、会いたくて堪らないと願っていた父さんやカサネ―――ではないものの、僕が大好きで大好きで堪らない日和叔父さんとクラスメイトとしても友達としても大切な存在である小鈴なのだ。
「ひ、日和叔父さん……っ……それに、小鈴……ご、ごめんなさい……ごめんなさい……僕、僕……一時とはいえ父さんやカサネのこと……忘れてた……ううん、彼らをいないものとしてたし、救う方法を考えるのを諦めて……ずっと逃げてた……っ……父さんもカサネも大好きな家族なのに……」
自然と涙が止めどなく零れ、言葉は所々つっかえるし散々だ。せっかく正気を取り戻し、大好きな日和叔父さんと再会出来たというのに―――。今、僕を救いに来てくれた日和叔父さんは壇上にいる偽物の校長先生とは違ってかっ【本物】だとすぐに分かった。
今、僕を見下ろしてくる日和叔父さんは眉間に皺を寄せている。これは、本当に僕を心配してくれている証拠だ。日和叔父さんは、昔から―――僕が木から足を滑らせて怪我をしたり、いじめっ子からからかわれて泣いていたりするといつも眉間に眉を寄せて、わざわざ呆れたように僕を見下ろしてきた。でも、その後の日和叔父さんは―――僕をおぶって看病してくれたり(終始仏頂面だった)、いじめっ子に注意してくれたり(面倒くさそうだった)と―――とても優しかったのだ。
此処には鏡が存在しないから自分じゃいまいち分からないけれども、きっと僕は涙で顔をぐしゃぐしゃにしてるという酷い有り様なのだろう。日和叔父さんと共に夜空から巨大な烏に乗って僕を助けてくれた小鈴が僕の方を見つめつつ、オロオロと戸惑いを露にしている様子がそれを物語っている。
と、そんな時―――
今までこれといった反応を示さなかった【舐苦童子】こと___【苦呂乃くん】に異変が起こる。彼には目という部位が存在していないくらいに全身が真っ黒だけれど、体育館の入り口の扉をジーッとただひたすらに見つめて凝視しているのが分かる。
その様子は、どことなく怒りが込められているように僕は思えた。
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