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第197話
しかし、それは―――体育館の扉を開けてから今にもスキップしそうな程に軽い足取りで中に入ってきた僕の本当の親友である【夢月】も同じだ―――。
正気を取り戻し、夢月の存在を思い出した僕なら分かる―――彼は小さなその身に、見合わないくらいに大きな怒りの炎を纏っている。
一歩、一歩と夢月が壇上の方へと向かう度―――両脇に体育座りをしていた偽物のクラスメイト(及び在校生たち)が顔を歪ませて後ろへと後退りしているのが―――余計に夢月がどれほどに大きな怒りを抱いているのか物語っているのだ。
薄暗いせいでよくは見えないけれど、怒りに支配されて無言のまま此方に近寄ってくる夢月が手に何かを持っているのが分かる。
でも、それが何かは分からない―――。
依然として、足が接着剤をつけられたかのよつにベッタリと床に張り付いて身動きの取れない僕には分かりようもなく、ただひたすら此方へと無言のまま歩いてくる夢月を見つめる事しか出来ない。それが、とてもじれったい。
ドサッ…………!!
「ねえ、これは何―――?」
―――それは、何冊かの本だ。題名も書いてあるようだけれど急に薄暗くなってしまったせいで光もろくに差さないこの場ではよく見えない。
普段の明るい夢月のものとは思えない程に、低く―――大人の男性のように重々しい声が、ついさっきまで狂ったように盛大な拍手が鳴り響いていた体育館とはうってかわってしん、と静けさに包まれている辺りに響く。
夢月の別人な声を聞いた途端、家族同然にずっと一緒にいた僕でさえビクッと体を震わせてしまう。すると、ふいに普段の優しい夢月の顔に戻った。そして、彼は―――笑いを堪えきれないといわんばかりに吹き出すのだ。
「嫌だなぁ……日向くん。ボクは別に君に怒ってる訳じゃないし、君に対して質問した訳じゃないんだよ?ボクはこの呪場を操ってる主―――舐苦童子に言ってるんだよ。ねえ、舐苦童子―――ここまで滅茶苦茶にした責任、とってくれるよね?ううん、とってくれなきゃ困るよ……だって、オマエはもう要らないから――さあ、オマエの住みかで最終決戦といこうか」
「え……っ……!?」
僕には夢月のその言葉の意味がよく分からない―――。
かろうじて、薄暗いこの場でも分かったのは―――その直後に【舐苦童子(苦呂乃)】という怪異なるモノへと向けて夢月が白いキラキラと光る粉状のものを振り舞いた事だった。
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