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第198話

「まさか―――日向くんのお父さんと、カサネ先生―――それに小見山くんを、あんな場所に閉じ込めて隠してるなんて思わなかったよ?膨大な本がある図書館から探させるなんて___よくもこのボクを虚仮にしてくれたよね……まあ、百歩譲ってそれは日向くんを永遠に自分のものにしたいって思っての事だから許してあげてもいいけど……でもさ、この本の題名のネーミングセンスはふざけてるとしか言い様がないんだけど?」 「……っ…………!?」 白いキラキラと光る粉を無表情のまま淡々と【舐苦童子】―――いわゆる怪異なるモノへと振りかけ続ける夢月の様子は彼と親友として過ごしてきて気の許せる者同士である僕ですら怯えてしまう。そして、その白いキラキラと光る粉を振りかけられる度に【舐苦童子】は呻き声をあげ、身悶え―――その苦しむ様子に反応するかのように周りの景色までもが変わっていく。 どろ、どろと―――まるで炎が灯る蝋燭が溶けていくように歪んでいく風景は今まで【僕らが通い慣れた学校の体育館】から【古井戸が異様なまでの存在感を放っている見覚えのある雑木林】へと徐々に変わっていった。 けれど、怒りを押し殺してる夢月の一方的な会話は―――止まる気配がない。それには、日和叔父さんや夢月と仲良しである小鈴でさえ思わず閉口して口出しできなくなってしまう程だ。先ほど、日和叔父さんと小鈴を乗せて乱入してきた艶やかな黒髪みたいに光沢のある巨大な烏でさえ―――しゅん、と身を縮こまらせながら小鈴の側で怯えているのが分かる。 もはや、今___この場を支配しているのは夢月だ。ぺら、ぺらとマシンガンのように辺りに響く夢月の声は聞いている者の不安を煽るくらいに低い声色で、とても僕と同じ年頃の少年のものとは思えないくらいに途徹もない威圧感を放っているのだ。 「日向くんのお父さんを閉じ込めてる本の題名は『家守は子に最大の愛を奏でる』……ふっ……意外とロマンチストだねぇ。カサネ先生は『重魂者』___まあ、ここまでは良いよ……間違ってはいないから。でもさ、小見山くんの題名ってこれは一体何なわけ?『underdog』__つまり、負け犬。これ、彼に対しての最大の侮辱の言葉だよね?ナメクジごとき矮小なキミと偉大なる存在の小見山くんを侮辱していいと思ってるわけ?言っておくけどね、彼は神様なんだよ。新たな命を生み出すことも、報われない魂を救うことも出来る神様―――でも自分を救うことは出来ない哀れな神様……」 夢月は何の話をしているんだろうか―――。 でも、少なくとも本の中に閉じ込められている『カサネ』、『父さん』、『小見山くん』に対して危害を加えようとしている訳でなく夢月は【舐苦童子】と違って此方に敵意を露にしている訳ではないと分かった僕は水で湿ってジメジメしてる土の上に散らばった三冊の本を拾い上げる。 もちろん、それは『カサネ』、『父さん』、『小見山くん』を救うためだ___。

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