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第201話

「う、うわっ…………!!?」 ぴょんっ…… 三冊の本の背表紙全部に深い祈りを込めつつキスし終えた途端に、辺りから強い風が吹いてくる。念のために中身の様子を確認するためにそれぞれの本を開いてた僕はあまりにも唐突な事に呆気にとられてしまう。その後急に吹いてきた風のせいでバサ、バサと勢いよくページが開き___呆気にとられていたせいで情けない表情を浮かべる僕の顔を目掛けて何かが紙面から飛び出してきた。 ガッ……と驚きのあまりに確認するために紙面を開いていた本とは別の二冊を思わず放り投げてしまう。そして、結果的にそれは辺りに存在する大量の黒いナメクジの住みかであり__僕らをこの異常な不気味さを醸し出してる場所へと連れてきた【舐苦童子】の呪場の根元でもある古井戸へと割と勢いよく当たってしまう。 「ったく……っ……なんなんだよ……!!?」 「う、ううっ……こ、ここは……一体何処なんだ……」 二冊の本が古井戸に当たり、暫くすると__僕にとって見慣れた筈の、そして大好きな家族である父さんとカサネが互いに苦しそうに呻き声をあげつつキョロ、キョロと辺りを見回しながら混乱している。その際に二人共体を気遣っている様子なのは、おそらく僕がもう一冊の本の中から飛び出して顔に張り付いた何かに対して驚いたせいで本を投げつけたせいだろう。 「と、父さん……っ……カサネ……良かった、良かった……本当に無事で……っ……」 二人の姿を見た途端に生暖かい涙が止めどなく溢れ、途徹もない安堵からしゃくりあげてるせいで、うまく喋れない僕の頬を伝う。 二人が本物なのかどうか確かめるために__僕は彼らに勢いよく抱きついた。父さんはニンゲンだから当然だとしても、元々は【怪異なるモノ】だったカサネですら今はニンゲンのように暖かさに包まれている。 しかし、そんな【家族】の久々の再開というクライマックスのシーンは___再び冷酷でカサネとは別物の悪意ある【怪異なるモノ】の舐苦童子によって邪魔されてしまう。 【くだらなイ、くだらなイ家族ごっこ___は終わりカ?お前ノ心から愛する叔父さんハ__どこにイる?お前ヲ……見捨てタ、見捨てタ……お前ハ奴ニ……見捨てられタんダ……奴ハお前ヲ裏切っタ……さあ、こっちに来イ!!】 深い深い井戸の底から低い【舐苦童子】の声が聞こえてくる。喜びに満ち溢れた___それでいて途徹もない怒りも込められている複雑かつ重々しい声色で父さんやカサネと再会できた嬉しさに喜びを露にしていた僕の心を揺さぶり動揺させようとしてくる。 確かに___日和叔父さんは忽然と姿を消していた。 先程まで、ずっと側にいてくれていたというのに___。 僕の意思に反して一歩、一歩__じり、じりと古井戸の方まで足が進んで行く。日和叔父さんが僕を裏切るなんてあり得ないと分かりきっているのに――。 主人から命令された犬のようにただひたすら従順に古井戸の方まで足を進めていき、何の疑問も浮かべることなく――これが当然だといわんばかりに意思を失ってしまっている僕は井戸の底を覗き込む。 巨大な二つの手が―――その瞬間を待ち望んでいたといわんばかりに、僕の頭を勢いよく掴んで引き摺り込もうとしてくるのだった。

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