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第204話

「父さん……っ……父さんってば__起きて、起きてよ……っ……!!」 「ん……っ……んん……どうしたんだ――美桜……そんなに怖い顔をして……」 駄目だ___。 父さんはまだ眠りの世界の中にいるらしく、必死で父さんの体を揺さぶり続けている僕の事をこの世にはいない筈の母さんだと思い込んでいる。そんな僕らの様子を、父さんを気絶させた元凶ともいえる夢月が相も変わらず蛙に変化したままの《小見山くん》を愛でながら愉快げに見ているせいでモヤモヤしつつも取り敢えずは夢見心地の父さんを現実に引き戻してから《護家演舞》を踊ってもらうために半ば怒り口調で彼の体を揺さぶりつつ起こし続ける。 「なっ……なんだ……日向か___いやあ、お前もすっかり母さんと瓜二つになったな……特にその怒り顔__母さんにそっく……り……」 「いいから___父さん……今はその話はどうでもいいから……っ……これを持って、父さんが大嫌いなあの踊りを踊って__早くっ……!!」 ずいっ―――と半ば強引に《桃の花》と《茱萸の木》を僕の切羽詰まった剣幕を目の当たりにして慌てふためく父さんへと押し付ける。幼い頃からずっと大嫌いな村の祭事に付き物である護家演舞を見ていた僕は流石に雅楽器の音は真似出来ないけれども、それと共に流れていた【護家守之歌】の歌詞を口ずさむ。 それと、共に父さんも護家演舞を踊る___。 今は村の祭事ではないし、怪異なるモノの呪場に閉じ込められているため巫女服は身に纏ってはいないけれども、そんな形式ばった衣装や化粧などしていなくても父さんは性別などという些細な事を感じさせないくらいに美しくて、尚且つ心の底から魂が込められている完璧な踊りを舞っていると、少し緊張しながら歌詞を口ずさみながら改めて思った。 その直後___、 僕と父さんの護家演舞を披露したのが合図だといわんばかりに___ざわ、ざわと木々がざわめき始めた事に気付くのだった。

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