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第205話
「~♪~♪♪~♪♪♪~」
トン、トトンッ___
僕がお世話にも上手いとはいえないながらも、無我夢中で護家演舞の音楽のリズムを口ずさみ、父さんがそれに合わせて舞い続けていく内に、辺りの景色が徐々に変わっていく事に気付いた。
周りに群生していた木々が___どんどん一ヶ所に移動していく。やがて、それは僕ら人間の背丈の何十倍もの大きさとなり、人間など矮小な存在だといわんばかりに見下ろして、ぴたりと動きを止めた。
しかも、異変はそれだけじゃない。
父さんの護家演舞が終わりに差しかかるのを見計らっているかのように、ゆっくりと大きさだけじゃなくて、その姿形までもが変化していくのだ。
一言で言い現すとするなら___《木を彫って作られた巨大な千手観音》だろうか。胸の前で手を合わせながら全てを見透かすかのような穏やかな笑みを浮かべている。そして、その他の巨大千手観音の膨大な数の手には《見事に咲き誇ってる桜の枝》が握られている。
(母さん……今はこの世にいない母さんも……きっと弟である光太郎だって……僕ら親子の護家演舞を応援してくれてる……っ……)
そう思いながら、護家演舞が完全に終わるまでは決して油断しない。周りの木々の多さを利用して、巨大千手観音と化した《母さん》も僕と父さんにそれを望む筈だ。
僕が緊張しつつリズムを口ずさむ度に__、
父さんが力強く舞い続ける度に___、
巨大千手観音の膨大な数の手に握られた《見事に咲き誇っている桜の枝》から、ハラハラと桃色の花弁が舞い落ちていく。
あまりの美しさに呆気に取られ、半ば口を開きながらも口ずさむのを止めない僕の元にも__今までで一番真剣な表情を浮かべている父さんの元にも__そして日和叔父さん、夢月、小鈴__あまりに唐突すぎる状況を予測出来ずに井戸の中に隠れるのが遅れた怪異なるモノ【舐苦童子】の元にも《桜の雨》が舞い落ちていく。
(こ、これ……しょっぱい___塩の味がする……っ……)
半開き状態の口の中に、意図せず《桜の花弁》が入ってきた。あまりのしょっぱさに、思わず顔を歪めてしまったものの__ここで失敗してしまったら《木で作られた千手観音と化した母さん》に顔向け出来ないと思った僕は尚も護家演舞の曲を口ずさみ続ける。
僕と父さんがリズムを口ずさみ、演舞する度に《しょっぱい桜の雨》が巨大千手観音から降り続き、先程よりも怪異なるモノ___【舐苦童子】の様子が明らかに悲痛さを増していき辺り一面に響き渡るくらいに大きな声で叫びながら身悶えていくのが分かるからだ。
「今だよ、小鈴くん。哀れで愚かなナメクジに……あれをお見舞いしてあげてよ」
「えっ…………は、はい……分かりましたなのです……夢月さん!!」
ふいに、側にいる夢月と小鈴のやり取りが聞こえてきた。
その口振りから察するに___何か他に作戦でもあるのかもしれない。
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