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第208話

※ ※ ※ 数日後の夕暮れ時___。 僕と夢月は赤紫色に染まった空の元、烏の鳴き声や畦道に群がる蛙の合唱を耳に入れながら帰路についていた。 「か、翔くん……っ……翔くんがこの村に来るなんて__珍しいね」 その途中で自転車に乗った金髪碧眼の外国の男の人(田舎のためかとても目立っている)と、その隣で和気あいあいと会話している見慣れた人物が目に入ってきて、声をかけるべきか否かと少し戸惑ったものの勇気を出して遠慮がちとはいえ彼らへ声をかける。 「あ……日向にい……ひ、久しぶり……」 「オー……ヒ、ヒナタ……ベリーキュート!!」 「ひ、ひゃっ…………!?」 遠慮がちに翔くんへ声をかけた僕は、彼の傍らにいてマジマジと此方を興味深そうに見つめてくる外国人の男の人から急に体をギューと抱き締められ咄嗟に変な声を出してしまった。そんな僕の様子が面白いのか、はたまた少し天然気味な性格なのか___それともお国柄というやつかは分からないけれど名前も知らない外国の男の人はニコニコしながら此方へ目線を向け続けているのだ。 「ち、ちょっ……クリス___初対面の日向にいに失礼だろ……っ……ごめん、日向にい……クリスに悪気はなくって……その……挨拶がわりのハグだから気にしないでくれよ」 「う、ううん……僕こそ変な声を出しちゃってごめん……翔くんと……クリスさん__は仲が良いんだね」 何となく翔くんとクリスさんが親密な関係だと悟った僕は当たり障りのない言葉を翔くんにかけた。これ以上、二人の邪魔をする気にはならなかったのだけれど僕はどうしても気になっている事があって__ゆっくりと再び口を開く。 「あ、あのさ……翔くん___これを光太郎に返しておいて欲しいんだ。これ、僕にはもう必要なさそうだから。本当は僕が直接、光太郎に会って返したいんだけど、光太郎は…………弟は、まだ僕のことを許して兄だって思ってさえくれていないから……」 ランドセルの中に大事に仕舞っておいた破魔矢を取り出して、僕は昔から弟の親友である翔くんの手にそれを握らせた。 「駄目だ……これは日向にいが持ってないと。それに、光ちゃんだって……そんな事望んでない筈だ……ほら、クリス……そろそろ帰るぞ……またな、日向にい!!光ちゃんは元気だから安心してくれよ」 「そ、それって……」 (どういう意味なの__?) と、聞こうと思った時には既に二人の姿は遠くなっていて、モヤモヤとした気持ちは残ったものの翔くんから半ば強引に返された破魔矢を再びランドセルに入れると、放っておかれて少しだけ不貞腐れたような表情を浮かべて此方を見つめていた夢月に謝ってから共に家路へとつくのだった。

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