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第209話

「あれ…………っ……?」 「どうしたの、日向くん___?」 ふと、僕の家の周りを取り囲む田んぼの真ん中にポツンと見慣れない物が設置されている事に気付いた。元々、そこには烏避けの案山子が設置されていた筈なのに___いつの間にか、僕が知らない内に見慣れない物が設置されていたのだ。 「何、これ………何でこんな田舎に___都会にあるような電光パネルが……っ……」 「あれ、日向くんには知らされてなかったの……若者がこれ以上この村から出て行かないようにするための試みをするんだってさ……ちなみに、このパネルの中にいるのはヨーコちゃんっていう都会で大人気な電脳アイドルなんだってさ__ほら、彼女ってとっても可愛いよね……ああ、でも日向くんには日和さんがいるから関係ないか」 「そ、それよりも……何で夢月はそんなに詳しいの?都会の事なんて、よく知らないと思ってたのに……」 そんなやり取りを夢月と交わしていたけれど、段々と辺りが暗くなってきたため意外と心配性な日和叔父さん(父さんほどではないけれど)をこれ以上待たせないように夢月と別れると小走り気味に家へと向かおうとした。 しかし、どうしても___田んぼの真ん中にポツンと寂しげにたっている《電光パネル》の存在が気になってしまい、一度は家のすぐ側まで来たものの強烈な好奇心には抗えずに結局は再びカエルと虫の大合唱が鳴り響いている田んぼまで戻ってきてしまった。 途中、数人の若者達とすれ違った___。 「やっぱり可愛いやんな……都会の電脳アイドルヨーコちゃん……」 「都会っちゅうんは……あげに可愛い存在があるんやき……こげ田舎にいるんが馬鹿馬鹿しくなっとよな……」 暗くて隅々までは見えないけど、その声色からして若い男性達というのが分かった。だんだんと、その人達の声が遠ざかっていく。 他人からそのような評判を聞いてしまうと、先ほどから感じていた好奇心が尚のこと膨らんでいく。 そのため、一瞬だけ___いつも夕飯を作って僕の帰りを律儀に待っててくれている日和叔父さんの怒った顔が頭をよぎったけれども、やっぱり強い好奇心には勝てずに暗闇に包まれた田んぼの真ん中に立って《電光パネル》まで向かっていくのだった。

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