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第211話
そこには___【舐苦童子】の呪場から解放されたばかりの僕を悩ませている根元の人物が立っていた。
「こんな暗い場所で、何をしているの?日向くん……ヤモも、日陰さんや君の叔父さんも帰りを待ってるよ?早く家に帰らないと、また日陰さんから叱られちゃうよ___」
いつの間にか僕の背後に砂利を踏みしめる音もなく静かに立っていたのは最近、僕のクラスに転校してきた【井森くん】だ。いつも隣にいる【家守くん】はおらず、珍しい事に一人で僕を迎えに来たようだ。
井森くんの親友である家守くんはともかく、僕はこの【井森くん】を苦手だと思っている。口の悪い小見山くんの方がまだマシだと思うくらいに苦手としている理由は、彼と僕の父さんとの距離感にある。
唐突だけれど、話は数日前に遡る___。
井森くんと家守くんが暮らしていた家(確か親戚の所に厄介になっていると言っていた)が無惨な事に火事で全焼してしまったらしく、彼らは住みかを無くしてしまったそうだ。世話してくれる人々を捜してみたものの、そんな厄介事ともいえる話を快く引き受けてくれる村人はおらず、厳格な反面___妙にお人好しともいえる父さんがその役目を引き受けたのだ。
つまりは【井森くん】と【家守くん】は今__僕の家に同居しているという事を言いたかったのだけれど、僕としては見過ごせない事態がひとつ起こってしまった。
厳格で神経質気味な父さんが___【井森くん】に対して妙にチヤホヤしている事だ。
彼の親友である【家守くん】に対しても割とそうなのだけれど、それとは比べ物にならないくらいに【井森くん】に対してデレデレしている。もしかしたら、【井森くん】が【家守くん】よりも甘え上手な面があるからかもしれない。
【井森くん】が家に来てからというもの、父さんと碌に会話さえしていない。僕が父さんと話そうとすると、それを邪魔するように【井森くん】が遮ってしまう。
「そんなの……わ、分かってるよ……っ……」
「そう?まあ、それなら良いんだけど___」
頭の中に、
『ヨーコちゃん』
が、さっき発してきたメッセージが思い浮かんだものの画面に目線を移しても、うんともすんともいわない事実に直面しガッカリしながら、ついつい語気を強めて【井森くん】へと言い放ってしまった。
不貞腐れてソッポを向いてしまった僕は___画面の中にいる『ヨーコちゃん』に示し合わせたかのように目配せする【井森くん】になど気付く訳もなく急ぎ足で家へと戻って行くのだった。
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