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第212話
※ ※ ※
「日向……っ……こんな遅くまで何をしていたんだ!?学校が終わったら早く帰ってきなさい、と口を酸っぱくして言っているだろう?」
玄関の扉を開けた途端、僕の予想通り__般若のようにおっかない顔をした父さんが待ち構えていた。今までも、神経質で生真面目な父さんは約束の時間を少し過ぎただけでも僕を叱りつけてきた。
だけど、今日は今までとは違って、特に怒りを露にしながら、急に怒鳴りつけられたせいで落ち込んでいる僕を叱りつけてきたのだ。
「ご、ごめんなさい……父さん……でも、あの___そこの田んぼに……」
「日向……父さんは言い訳なんていうのは、聞きたくはない。父さんとの約束を破ったのはお前だからな」
何か勤め先で嫌な事でもあったんだろうか__。
仕事をした事がない子供の僕でさえ、今の父さんの怒りが凄まじいものだと分かると同時に、僕の言いたかった言葉を遮ってまで叱る事を優先させてきた父さんに対して今度は僕まで怒りがふつ、ふつと沸いてしまった。
でも、僕の心を怒りが支配した原因はそれだけじゃない。
「あ、あの___日陰さん。日向くんは、田んぼに設置されたばかりの電光掲示板に映る《ヨーコちゃん》っていう都会で大人気の電脳アイドルに興味を持って一目見てみたいって思っただけなんです……そうだよね、日向くん__決してお父さんである日陰さんを困らせたかった訳じゃないよね?」
背後から、いつの間にか僕に追い付いていた【井森くん】が穏やかな声色で怒り心頭のままの父さんへ説明する。その途端、今まで僕に
対しては怖い顔で叱りつけていた父さんの顔が、まるで別人のように満面の笑みへと変わった。
「日向……井森くんと矢守くんを見習いなさい。彼ら__特に井森くんは日向が家に帰って来ないのを心配して、わざわざ言いつけを守らない悪い子のお前を探しに行ってくれたんだぞ?もし、井森くんがお前を見つけてくれなかったら__いったい、どうするつもりだったんだ!?」
「…………」
その父さんの言葉を聞いて、怒りが増幅してしまった僕は無意識の内に口をへの字に曲げながら不貞腐れているような態度をとってしまう。涙が出そうになるのを必死で堪えながら、僕は心の中でどうしたらいいのか必死で考える。
そして、悩みに悩んだ僕が下した決断__。
「こらっ………待つんだ、日向!!まだ話しは終わってないぞ!!」
父さんの声を無視して、僕は日和叔父さんがいる部屋へと走って行くのだった。
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